今回は新聞社を早期退職した時の失敗談をお話します。
僕が職場の上司に「辞めます」と告げたのは、ある年の師走のことでした。
あらかじめ準備していた退職願と早期退職優遇制度の適用申請書を提出すると、1週間後に人事部から「申請が認められました」と通知が届き、翌年3月末付の退職が正式に決まりました。
「ああ、これで無事に割増退職金をもらって自由の身になれる。なんだか一仕事やり終えた気分……」と感慨に浸っていた僕ですが、ひとつ大事なことを忘れていました。
有給休暇の消化です。
日本のサラリーマンには「有休を積極的に使う」という発想があまりありません。特に新聞社というのは「休日返上で取材する奴がえらい」という歪んだカルチャーがいまだ抜けきらない世界です。
ただ、そんな旧態依然とした業界でも退職前だけは例外です。どんなに「仕事中毒」だった記者でも、ここで一気に有休を使い切るものです。
なのに、マヌケな僕は「やり終えた感」に浸ったまま、休日取得の手配もしないでのほほんと過ごしていたのでした。
●未消化休を数えてみると…
数週間後、上司から「有休消化はどうするの」と尋ねられました。
あわてて自分の休日消化状況を調べてみてビックリ。未消化の有休が70日以上もたまっているではありませんか。
その中には入社20年の節目に会社から与えられたまま、塩漬け状態になっていた永年勤続休暇なんかもありました。
当時の僕は、内勤職場に異動して3カ月たったころでしたが、その前はずっと記者をしていました。この未消化休の多さは、明らかに記者時代の働き方に由来するものです。
そして運の悪いことに、僕がいる内勤職場では、この時点ですでに翌年1月中旬までの勤務ローテーションが組まれていました。
そうです。
僕が今すぐ休日取得を申請しても、実際に休み始めることができるのは1月下旬以降。そこから3月末の退職日までひたすら休み続けたとしても、すべての有休を使い切ることができないのです。まさに後の祭りでした。
●手当が減ってしまう
しかも、です。
さらにいろいろ調べてみると、我が社の給料の計算式では、1カ月当たりの休日取得が一定数を超えると、たとえそれが有休であっても、業務手当なるものが段階的に削られていくことが判明しました。
そのインパクトは結構大きく、仮に2月と3月に1日も出勤しなかった場合、僕がもらえる給料は本来の額より数十万円単位で減ってしまうという試算結果になりました。
ああ、なんてことだ……。
こんなことなら有休消化をあきらめて、業務手当を取りこぼさないよう最後まで働き続けようか。それとも、業務手当をあきらめて有休をできる限り消化しようか。
悩んだ末、僕は有休消化を優先することにしました。
そもそも今回、早期退職を決断したのは、人生に残された貴重な時間を本当にやりたいことだけに費やしたいという思いからじゃないか。ならばカネより時間を取ろう―――そんな理由です。
こうして僕は、それまでの記者人生で経験したことがないほどの長い連休を取りました。それでも退職日を迎えた時点で、なお10日ほどの有休が残りました。
もったいないことをしたものです。
●消化は計画的に
今振り返れば、僕が犯した根本的な過ちは、休日取得を申請するタイミングが遅れたなどという些末なことではありません。新聞社の古いカルチャーに染まり、簡単に消化しきれないほどの有休をためこんでいたことなのだと思います。
早期退職を考えているサラリーマンのみなさん、直前になって慌てなくてもいいよう、有給休暇(特に永年勤続休暇などボリュームがあるもの)は計画的に使っておきましょう。
〈付記〉「休日返上で取材する奴がえらい」という新聞業界の悪しきカルチャーは、近年、働き方改革の普及とともに見直されつつあります。ただ、取材現場の人減らしが進んでいることもあって、「休みが取りにくい」という新聞記者の勤務実態はまだまだ解消されそうにありません。