これって天下り利権? iDeCo手数料の闇

2024/04/06

iDeCo

最初に断っておきますが、今回の記事は少々毒を含んでいます。

iDeCo(イデコ = 個人型確定拠出年金)の手数料には深い闇がある、というお話です。できる限り一次資料に当たりながら、多くの人がなんとなく感じているであろうモヤモヤの正体を考察してみたいと考えていますので、ぜひ最後までお付き合いください。


(※この記事はイデコ制度そのものの解説は省略しています。イデコがどういうものかわからないという方は、先にこちらの記事をお読みください)


異様に高いイデコの手数料

さて皆さん、イデコの手数料って異様に高いと思いませんか?

まず、加入時に徴収される手数料が2829円。

その後、毎月の積立ごとに徴収される手数料が171円。つまり年間2052円。

さらに将来お金を受け取るときに徴収される手数料が1回あたり440円。

楽天証券やSBI証券といったネット証券を使っても、これだけの手数料を取られてしまいます。

仮に30年にわたってイデコで積立投資を続け、老後に10回に分けて給付を受けた場合の手数料を単純計算すると…

2829+2052×30年+440円×10 = 68789

なんと手数料だけで7万円近くのお金が飛んで行ってしまいます。(※店舗型の金融機関だとさらに手数料が膨らむことが多いです)

近年、様々な手数料の値下げ競争が続くネット証券業界を見慣れた身からすると「ぼったくりじゃねーか!」と叫びたくなるような金額です。

インデックス投資をやっている人ならわかると思いますが、長期投資というのはとにかくランニングコストを低く抑えるのが鉄則です。そしてイデコというのは、まさに 長期投資によって老後資金を準備するための制度です。

なのに、なぜこんなハチャメチャな手数料設定がまかり通っているのか?

僕はここに闇の存在を感じてしまうわけです。


手数料の大半を得ている団体

念のために言っておくと、これらの手数料を懐に入れてるのは、楽天証券やSBI証券といった 窓口の金融機関(イデコではこれを「受付金融機関・運営管理機関」と呼ぶ)ではありません。

では誰の懐に入っているのか?

まず、加入時の手数料2829円の行き先は国民年金基金連合会という団体です。

次に、毎月171円の手数料の行き先ですが、このうち105円はやはり国民年金基金連合会で、 残る66円は実際の資産運用を行う信託銀行(イデコではこれを「事務委託先金融機関」と呼ぶ)のものになります。

それから給付時の手数料440円の行き先も同じく信託銀行です。

こうしてみると、イデコのバカ高い手数料の大部分が国民年金基金連合会なる団体へ流れ込んでいることがわかります。

この国民年金基金連合会とはいかなる組織なのでしょう。



公式サイトによると、1991年に厚生大臣(当時)の認可を受けて設立された団体で、2002年からは確定拠出年金法に基づき、イデコの実施主体として加入者の資格確認などの業務を担っているとのこと。役員名簿には大手信託銀行や厚生労働省のOBらが名を連ねています。

まあわかりやすく言うと、国からイデコの仕切りを任された半民半官の総元締めのような存在です。

それにしてもなぜ、この団体がこれほど多くの手数料を懐に入れているのか、僕は理解に苦しみます。

だって、実際に加入者の窓口になって色々な手続きをしたり、口座を管理したりしているのは楽天証券やSBI証券といった受付金融機関・運営管理機関です。また、加入者から預かった資金を実際に運用しているのは、信託銀行などの事務委託先金融機関です。

それにひきかえ国民年金基金連合会の仕事って、言ってみれば目付け役みたいなものでしょう。(※具体的な役割分担はこちらのサイトを参照してください)

百歩譲って新規加入者の資格チェックとかが大変なのだとしても、それは12829円もする 加入時手数料で済む話。その後何十年にもわたって、加入者からこんなにバカ高い手数料を毎月取り続ける理由なんてどこにもないでしょ、と突っ込みたくなります。

実際、過去には「イデコの手数料が高すぎる」と疑問視する声がメディアで紹介されたこともありました。

例えば、日経新聞は201911月、「idecoに月105円の壁 重い手数料、算定根拠は不透明」とする記事を配信。運用利回りが低いと手数料で元本割れを起こしてしまうと指摘し、「厚生労働省が対策に乗り出そうとしている」と報じています。

しかし、それから5年近くが過ぎた今も、手数料が見直される兆しはありません。


税金優遇制度が生み出した利権

さて、ここまで読んでくれた方の中には、

「世の中には手数料の高いボッタクリ商品が他にもたくさんあるんだから、イデコばかり目の敵にしなくてもいいじゃないか」

「イデコには税金優遇という大きなメリットがあるんだから、多少手数料が高くてもいいんだよ」

と感じた人がいるかもしれません。

しかし、僕はそうは思いません。

確かに、世の中にはバカ高い手数料を取る金融商品や金融サービスがたくさんあります。でも、民間の金融機関がそうした手数料を設定するのは自由です。なぜなら、それがボッタクリだと思う人は他社のサービスに乗り換えればいいだけの話だから。これが資本主義社会の常識です。

しかし、国民年金基金連合会はイデコという国の制度を仕切る唯一無二の団体です。僕たちが楽天証券を選ぼうが、SBI証券を選ぼうが、イデコの節税メリットを享受しようとする限り、この団体が徴収する手数料から逃れることはできません。

逆に連合会の立場からすると、誰もが欲しがる免税チケットを高値で独占販売しているようなものだから、これほど美味しい話はありません。



つまり、これは国の税金優遇制度にからんで生じた事実上の「利権」だと言っていいでしょう。


利権の裏に年金官僚の天下り

ではなぜ、こんな利権構造が放置されているのでしょうか?

監督官庁である厚生労働省の官僚たちは、なぜ見て見ぬふりをしているのでしょうか?

理由は色々あると思いますが、僕はこの団体が彼らの天下り先になっていることが大きいんじゃないかと見ています。

さきほど国民年金基金連合会の役員名簿に厚生労働省などのOBが名を連ねていると指摘しましたが、もちろんそれだけではありません。

連合会の内部にどのくらいの天下り官僚がいるのか、詳しい情報が公開されていないので全貌をつかむのは難しいですが、例えば内閣官房 が過去に公表した「国家公務員の再就職状況」という資料を眺めていると、こんなケースが出てきます。


(※画像をクリックするとくっきり見えます)


これはつまり、旧社会保険庁(厚生労働省の外局)の出先機関の事務局長ポストを最後に退官した人物が、その翌日に国民年金基金連合会の総務部長ポストに就任したという意味です。まさに天下りです。

また、内閣府官民人材交流センターの過去の人事資料にはこんなケースが出てきます。


(※画像をクリックするとくっきり見えます)


こちらは厚生労働省の大臣官房付だった人物が退官した翌年、国民年金基金連合会の審議役ポストに就任したということです。これも天下りです。

恐らくこういうのは氷山の一角であり、連合会にはこれまで数多くの天下り官僚を受け入れてきた「実績」があるんじゃないかと僕は推測しています。このあたりにイデコの法外な手数料が脈々と温存されてきた理由があるのではないでしょうか。

要するに、厚生労働省の現役官僚にしてみると、国民年金基金連合会というのは先輩たちの職場であり、自分自身も将来お世話になるかもしれない大切な団体なわけです。彼らがその収入源にメスを入れられるのか、という話です。

ちなみに、国民年金基金連合会の構成団体である全国国民年金基金という組織については、昨年、全国の支部長ポストのほとんどが年金官僚たちの事実上の天下り先になっていることが明るみに出ました。週刊文春のスクープです。

こうした報道を見ればわかるとおり、年金事業の周辺には至るところに官僚の天下りシステムが用意され、利権の温床になっています。国民としては実に歯がゆいところですが、明確な法律違反でもない限り、いかんともしがたいのが現実です。

誤解して欲しくないのですが、僕は別に「国家公務員の再就職は全てけしからん」と主張したいわけではありません。

僕が言いたいのはそういうことじゃなくて、年金官僚の天下り団体がイデコという民間では決してマネのできない税金優遇制度を盾にとって、「節税したい」「老後資金を準備したい」と願う国民から法外な手数料を巻き上げているんじゃないか、そういう利権構造が出来上がってしまっているんじゃないか――――ということです。

さらに言えば、「もう年金だけで安泰の時代は終わりました。国民の皆さんはNISAやイデコを使って自己責任で老後に備えてください」というのが日本政府の本音なのであれば、せめてこういう利権構造を解体して、まともな手数料設定に改めるのが最低限の責任だろう――――と言いたいわけです。

みなさんはどう思いますか?


〈補足①〉

余談ですが、僕の大学時代の友人に、某省のキャリア官僚になったY君という人物がいました。

Y君によると、彼の職場ではその省のOBを受け入れている天下り団体へ、事務委託費や補助金の名目で毎年公費を支出していたのですが、先輩官僚たちはこうした予算のことを「生活費」と呼んでいたそうです。「今年も当初予算で〇〇研究機構に2億円の生活費をつけておいたからね~」みたいな感じで。

恐らく彼らは天下りしたOBたちに生活費を仕送りしているような感覚だったのだと思いますが、もちろん原資は国民から集めた税金です。そのことを考え合わせると「イデコの手数料って形を変えた生活費なんじゃないのか」という気がしてきます。

ちなみに、Y 君はその後若くして官僚を辞めて転職してしまったので、その省で今でも生活費という隠語が使われているのかどうかは不明です。


〈補足②〉

念のためですが、この記事の趣旨はあくまで「イデコの手数料を下げろ」であって、「イデコなんてやるべきじゃない」ということではありません。

イデコには色々な問題がありますが、安定的な収入がある現役の方にとっては絶大な節税効果をもたらしてくれる制度であることは事実です。なので、一人一人が自分にあったイデコとの付き合い方を選びつつ、みんなで「この手数料はおかしいだろ!」と声をあげ続け、より良い制度に変えていくことができればそれが一番ではないかと思っています。

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コロナ禍のなか、45歳で新聞社を早期退職し、念願のアーリーリタイア生活へ。前半生で貯めたお金の運用益で生活費をまかないながら、子育てと読書と節約の日々を送っています。

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