FIREと失業手当の悩ましい関係

2022/11/28

失業手当 退職時の手続き

 

(2024年4月2日更新)


今回は、多くのサラリーマンが退職後にお世話になる失業手当について話します。

一言でいうと、とてもありがたい制度だけど、みんなが思っているほど簡単にもらえるお金じゃないよ、というお話です。

特に、悠々自適の生活に憧れてFIREを目指している人や、仕事に疲れ果てて当分ゆっくり休みたいと考えている人は要注意。失業手当の受け取りには「求職活動をしている人」という条件が付けられているからです。

というわけで、僕自身の体験を振り返りつつ、早期リタイアと失業手当の悩ましい関係について解説していきます。

仕事を探してない人はもらえない

まずは基本を押さえておきましょう。

失業手当というのは大雑把に言うと、職を失った人の当面の生活を支えるために、元々の給料の5080%くらいのお金を雇用保険から払ってあげる制度です。

もちろん、1日当たりの金額には上限があって、29歳以下なら6945円、30~44歳なら7715円、45~59歳なら8490円、60~64歳なら7294円(2024年3月現在)。給付日数は、雇用保険の加入期間や年齢、離職理由によって90360日と幅があります。

こういうありがたい制度ですから、日本のサラリーマンの多くは会社を辞めたらまずハローワークへ行って失業手当をもらおうとするでしょう。もちろん僕もそのつもりでした。

ところが、退職前にいろいろ勉強してみると、失業手当というのは会社を辞めたからといって無条件にもらえるお金ではないらしい、ということがわかってきました。

受給するには、まず、ハローワークから「この人は失業状態にある」と認定してもらわなければなりません。失業状態とはどんな状態なのかというと、本人に就職する意思と能力があり、実際に努力をしているけれど、まだ職に就けていない、という状態なのだそうです。

つまり、「今日からリタイア生活を満喫するぞー!」って人は対象外なわけです。

でも、その人に本当に就職の意思があるのかどうか、努力しているのかどうかってことを、ハローワークはどうやって見極めるんだろうって不思議に思いますよね。

実は、具体的な判定ルールがあるのです。

月2回の「求職活動実績」が条件

これまた大雑把に言うと、その人を月に1回、ハローワークの窓口に呼んで、過去1カ月間に実行した具体的な求職活動を報告させる。そして、「これは間違いなく求職活動だ」という実績が2件以上あればOKとなって、そこで初めて1カ月分のお金を銀行口座に振り込む、というシステムなのです。

では、具体的にどういうことをすれば求職活動の実績として認められるのか? これについても明確に定められています。

単に「ハローワークのパソコンで求人情報を探した」とか「民間の就職・転職サイトに登録した」とかではダメ。「ハローワークの窓口で職員相手に求職の相談をした」「民間団体が開催する就職セミナーに参加した」「企業の求人に応募した」といった、より積極的な行動でなければ認めてもらえません。

これを知った時は正直、気分が重くなりました。 


心を鼓舞してハローワークへ

僕が早期退職を決めたのは、日々の仕事がしんどくて、会社員人生が嫌になって、自由の身になりたいと渇望した結果です。だから、早くリタイア生活に入りたい、ゆっくりしたいというのが本音でした。

でも、それだと失業手当はもらえません。20年以上に渡って給料から雇用保険料を天引きされてきた身としては、それはやっぱり悔しい。で、いろいろ考えた末、ここはなんとか心をふるいたたせて求職活動なるものにチャレンジしてみるしかないなと思い直しました。

まあ、ものは試しだ。ひょっとしたら世の中には、僕みたいな人間でも自由を満喫しながらマイペースで働ける職場があるかもしれない。そんな夢のような仕事が見つかれば将来のお金の心配だって減るじゃないか……大体こんな気持ちだったように思います。

さらに付け加えるなら、40代無職の元新聞記者って今の就職市場でどのくらいの価値を持っているんだろう、という「怖いもの見たさ」的興味もありました。

こうして僕は退職後、大学時代以来二十数年ぶりとなる職探しをすることになったのです。 

40代無職男の市場価値

ハローワークで失業手当の申請手続きを済ませた後、まず手をつけたのは、ハローワークのパソコンを使った求人情報検索です。しかし、これはほとんど役に立ちませんでした。

僕は長年のライター経験を生かせそうな出版・編集系の仕事を見つけたかったのですが、そういう分野の求人はまったくヒットしなかったのです。

そこで作戦を変え、自宅のパソコンで民間の求職・転職サイトにいくつか登録してみたところ、編集系の求人がチラホラ見つかるようになりました。

ただ、なじみのある紙媒体は少なく、ほとんどはカタカナ社名のウェブメディアです。アナログ人間の僕には少し苦手意識がありましたが、贅沢は言っていられません。さっそく定型の履歴書にプロフィールを打ち込み、オンラインで3社に応募しました。


待つこと数日、転職サイトを通じて届いた選考結果通知をドキドキしながら開いてみると、「恐れ入りますがご期待に沿えない結果となりました」との文言が……。見事に3社とも書類落ちでした。

この時はさすがに「ああ、これが40代無職男の現実なのか」と痛感しつつ、「まあいいや、今月の求職活動実績はこれで確保できたじゃないか」と自分を慰めたものです。

それから何カ月も、僕の玉砕は続きました。

「自由が欲しくて前の会社を辞めたので次はマイペースで働きたい」と包み隠さず本音を伝えたのが悪かったのか、ごくたまに書類選考を通過しても、その後のオンラインのやりとりで判で押したようにバッテンをつけられてしまいます。結局、採用に至ることがないまま、僕の受給期間は終了しました。

人間とはゲンキンなもので、失業手当が出なくなると求職活動のモチベーションも一気に下がってしまいます。

「ああ、もういいや。やっぱり俺は会社勤めに向いてない人間なんだよ」

こうして人生2度目の職探しは、あっさり幕を下ろしたのでした。 


もらえる時にもらっておこう

今振り返ってみると、ハローワーク通いは決して楽しい思い出ではありませんが、渋々ながらも求職活動実績を積み重ねて、もらえるお金をしっかりもらっておいたのは良い選択だったと思います。人生、何があるかわかりませんから。

さらに付け加えるなら、いい社会勉強にもなりました。現にこうやってブログのネタになっているくらいだし。

ここであえて偉そうなことを言わせてもらうと、求職活動実績をカウントして失業手当を支給する今の制度って、いろいろ問題があるように思います。恐らく、本当はもう働きたくないのに実績作りのためだけにハローワークの窓口に並んだり、企業の求人に応募したりしている人って相当な数にのぼるんじゃないでしょうか。ハローワークの職員さんたちもそんなことは百も承知のはずです。

にもかかわらず、こういう形骸化した制度が延々と続いているのって、いかにも日本的だと感じます。いっそのこと「雇用保険料を一定年数以上納めた労働者が職を失った場合は一律で支給する」というルールに改めた方がスッキリするんじゃないかと思ってしまうくらいです。

もちろん、だからといって不正受給は絶対にいけません。

やってもいない求職活動をでっちあげてハローワークに報告したりすれば、バレたときに厳しいペナルティが待っています。ハローワークの職員が企業に電話して「本当にこの人がおたくの求人に応募しましたか?」と尋ねることがあるらしい、といった噂もチラホラ聞きます。

この記事を読んでくれたみなさんは、くれぐれもそういう行為に手を染めないでくださいね。

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コロナ禍のなか、45歳で新聞社を早期退職し、念願のアーリーリタイア生活へ。前半生で貯めたお金の運用益で生活費をまかないながら、子育てと読書と節約の日々を送っています。ただいま49歳。

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