サラリーマンが会社を辞めた時にやるべき手続きは本当にたくさんあります。年金、保険、確定申告……どれも人生初体験のことだから頭がパンクしそうになりますが、今後の生活を考えればしっかり理解しておく必要があることばかり。
そこで今回は、そうした手続きの一つである健康保険の切り替えについて、僕の体験談をお話します。あなたの選択によって負担額が変わってくる話なので、早期リタイアを考えている人はぜひ参考にして下さい。
それは退職日を約2カ月後に控えたある日のことです。
有給休暇の消化中だった僕は、久しぶりに1日だけ会社に出向き、総務部門の社員とマンツーマンで1時間ほど面談しました。それは「退職手続き説明会」とでも呼ぶべきもので、年金の切り替え手順などについて怒涛のようなレクチャーを受けたのです。
どれもこれも重要な案件でしたが、なかでもすぐ生活に関わってくるのが健康保険です。講師役の社員の説明は大体こんな内容でした。
●三つの選択肢
あなたは現在、〇〇新聞健康保険組合に加入していますが、退職とともに脱退することになります。その後の選択肢は大きく三つ。
A、すぐに再就職してその会社の健康保険組合に入る。
B、自営業者や無職の方が加入している国民健康保険に入る。
C、我が社の健康保険組合に「任意継続」で入り直す。
この中から選ぶことになります。
任意継続というのは、退職後も2年間だけなら今までの健康保険組合に加入し続けることができるという制度です。これを選べば、社員と同じように我が社の診療所や保養所を利用できます。ただし、2年たったら脱退しなければなりません。その後は国民健康保険に入ることになるでしょう。
なるほど。
とりあえず、この時点で再就職のことはまったく考えていなかったから、まあAはないだろうと思いました。
従ってBかCの2択ですが、僕としては退職後も会社の診療所や保養所を利用したいとは特に思いません。だから問題はどっちの保険料が安いか、これだけです。
この点を尋ねると講師役社員は言いました。
まあ、ケース・バイ・ケースですね。
一般的なことを言えば、あなたは今、たくさん給料をもらっていますから、国民健康保険に入れば最初の年は保険料がかなり高額になるでしょう。
ただし、あなたは今回、会社の早期退職者募集(=リストラ作戦)に応じる形で退社するわけだから、法的には「自己都合退職」ではなく「会社都合退職」ということになります。この場合、おすまいの自治体に申請すれば保険料の軽減制度が適用され、おそらく任意継続より安くなると思います。
もっとも、軽減の度合いは自治体によって幅があるので、確実に安い方を選びたいなら、おすまいの自治体に保険料がどのくらいになるかたずねてみたらいかがでしょう。
●市役所でコスト見積もり
翌日、僕はさっそく市役所を訪ねました。
国保年金課の窓口で事情を話すと、応対した職員は僕の身分証を確認してパソコンをたたき、僕が納めている住民税のデータを見ながら大体の保険料を試算してくれました。
結果はこうです。
普通に国民健康保険に加入したら年間の負担額は約90万円(!)。しかし、会社都合退職による軽減措置が適用されれば約50万円になる―――。
ちなみに、〇〇新聞健康保険組合の任意継続を選んだ場合の負担額は、はっきりと覚えていないのですが、大体この二つの金額の中間くらいでした。
そういうわけで、僕は迷わず「国民健康保険に加入して軽減措置を受ける」という選択肢を採用することにしたのです。
それにしても、軽減されてなお50万円とは……。だれもが安心して医療サービスを受けられる社会のために必要なコストだということは重々理解していますが、収入を失う身にはあまりにも痛すぎる出費です。
ただ、これを読んでくれている早期リタイア志望者のみなさん、過度に悲観しないでください。こんな負担が未来永劫続くわけではありません。国民健康保険の保険料は、住民税と同じく前年の所得に応じて決まるわけだから、翌年からはガクンと下がります。
●手続きの流れ
それでは気を取り直して、実際に退職してから僕が行った手続きの流れを見ていきましょう。
①
3月末の退職にあわせて〇〇新聞健康保険組合に保険証を返却し、組合から「この人は脱退しました」という内容の証明書をもらう。
②
4月、その証明書を持参して市役所で国民健康保険の加入手続きをする。ここで新しい健康保険証がもらえる。
③
ハローワークで「この人は会社都合退職者です」という内容の証明書(特定受給者資格者証)をもらい、それを市役所に持参して保険料の軽減を申請する。
④
6月、市役所から保険料の決定通知が届くので、銀行で引き落としの手続きをする。
以上が僕の国保デビューまでの道のりです。本当に手間がかかりますね。
それから実はもう一つ、ぜひお話しておきたいエピソードがあります。それは、健康保険の切り替え手続きをした後で僕がはまった意外な「落とし穴」の話です。というわけで次回はそのことを書かせていただきます。
◇ ◇ ◇
〈補足〉
もしも、家族の中であなた以外に働いている人がいる場合は、先にあげた三つの選択肢のほかに、「その人の扶養に入る」という選択が可能になります。そうすれば、その人が加入している健康保険の被保険者になれるので、あなた自身が保険料を払う必要はなくなります。
ただし、あなたが家族の扶養に入れば、雇用保険のうえでは「失業状態」でなくなるので、失業手当はもらえなくなってしまいます。
従って、まずは国民健康保険などに加入して、失業手当を受けながら求職活動にはげみ、受給期間中に就職先が見つからなかった場合は家族の扶養に入る、という手順が良いのではないかと思います。