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昔から富み栄えている家には、財産を末永く守ってゆくためのノウハウが親から子へ連綿と受け継がれている―――。資産運用の勉強をしていると、そんな話をよく聞きます。
だから、歴史ある名家の投資先を知ることは、庶民にとっても大いに参考になるはず。そういう意味で、この本は実に興味深いデータを提供してくれます。
ノンフィクション作家の奥野修司さんが書いた「極秘資料は語る 皇室財産」(2022)。
宮内庁のOBが秘蔵していた極秘文書をもとに、戦前の皇室が保有していた株式の銘柄リスト―――つまり「天皇家のポートフォリオ」を解き明かした驚愕のレポートです。
というわけで、今回は本書をひもときながら、天皇家がかつてどんな企業に投資し、どれくらいの利益を得ていたのかを紹介します。
皇室が保有していた26銘柄
それではさっそく、この本に収録されている昭和初期の天皇家の保有銘柄リストを見てみましょう。(金額は額面額又は払込額、%は配当利回り。1万円未満切り捨て。)
日本銀行 2080万円 10%
横浜正金銀行 2093万円 10%
日本勧業銀行
東京海上火災
朝鮮殖産銀行
三井銀行
三菱銀行
第一銀行
台湾製糖
王子製紙
東京瓦斯(ガス) 54万円 8%
南満州鉄道 162万円 8%
北海道炭礦汽船 66万円 7.5% ※優先株
北海道拓殖銀行
住友銀行
日本興業銀行
三菱信託
朝鮮銀行
台湾銀行
漢城銀行
北海道炭礦汽船
日本郵船
大阪商船
帝国ホテル
十五銀行
東洋拓殖 無記載 無配当
東京電燈 無記載 無配当
合計 6280万円(配当収入521万円)
現代なら配当収入156億円
本書によると、この銘柄リストは1936年度(昭和11年度)の宮内省予算案に記されていたものだそうです。
ちなみに、当時の1円の価値は今の3000倍ぐらい。
だから、表の一番上にある日本銀行株なら、現在の貨幣価値に換算すると額面624億円くらい。
ポートフォリオ全体では、現在の貨幣価値で額面1884億円くらいになる計算です。
いやはや、ものすごい大投資家ですね。
投資先を見ると、政府系の国策銀行と財閥系銀行が目白押し。今の僕らの感覚で言うと、日銀株を保有できるということ自体すごい話です。
さらには、東京海上火災、王子製紙、東京ガス、日本郵船、帝国ホテルといった今でもおなじみの民間企業の株もたくさん持っています。
セクター別では金融系が圧倒的に多く、運輸・交通系がそれに続く印象です。
そして、どれもこれも驚くほどの高配当! このころは配当利回りが10%とか8%とかいった銘柄がゴロゴロしていたんですね。
年間の配当収入は合計521万円だから、現在の貨幣価値だと156億円くらいになる計算です。
配当再投資で資産が成長
それにしても、なぜ、戦前の天皇家はこんなに株を持っていたのでしょうか?
本書によると、江戸時代末ごろの天皇家は実質3万石程度の経済力しか持っていませんでしたが、明治維新で境遇が一変。幕府や各藩が持っていた莫大な不動産(主に森林)とともに、政府が保有する日銀株などが皇室財産に組み入れられ、大資産家に変貌したそうです。
しかも、不動産収入や配当収入の一部を使って、新たに株式や債券を購入していったものだから、明治・大正・昭和と時代が進むにつれて資産が増加。
これは僕の個人的感想ですが、まさに「配当再投資で富を増やし続ける高配当株投資家」といったイメージです。
もしかしたら、当時の宮内省には「投資のプロ」を集めたブレーン集団がいて、現代のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のように長期目線で投資戦略を練っていたのかも……。
もっとも、ノンキに感心しておけばいい話ばかりではありません。天皇家の富がここまで成長した背景には、大日本帝国の海外侵略がありました。
本書によると、その大きなきっかけとなったのが日清戦争。日本が清国からぶんどった賠償金の一部が皇室財産に組み入れられ、これ以降、皇室は台湾銀行・朝鮮銀行・南満州鉄道など、植民地経営の一端を担う国策銀行や国策会社へ次々投資していったそうです。
このあたり、日本が隣国を植民地化するのにあわせて天皇家の資産がどんどん肥大化していくという、歴史の暗部を見る思いがします。
本書によると、戦後、GHQの判断で天皇家にも臨時の財産税が適用された結果、皇室財産の9割が国庫へ移されました。莫大な金融資産はもちろん、皇居や京都御所といった不動産に至るまで天皇家の所有物ではなくなったそうです。
う~ん。
しがない一投資家として、天皇家の資産運用から何を学ぶべきでしょうか。
スケールも時代も全く違いますが、あえて教訓を挙げるなら、「今も昔も資産運用の鉄則は配当再投資である」ということ。それから、「長年育ててきた資産も社会が激変すれば一瞬で吹っ飛んでしまう」ということでしょうか……。
最後に一つ補足しておくと、僕は単に投資家としての興味だけで読んでしまいましたが、本書は明治維新以降の皇室財産の歴史を丁寧に調べあげた学術的な本でもあります。興味のある方はぜひ読んでみてください。