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今回はとっておきの愛読書を紹介します。
「海辺を食べる図鑑」(2015年、南方新社)。
日本列島の海岸線で普通に見ることができる雑多な生き物たちを、その名の通り「食べられるか否か」「うまいか否か」という視点で紹介した図鑑です。
なぜ、早期リタイアをテーマにしたブログで、この本を取り上げるのか?
それは、リタイア希望者の中には、僕のように「将来は海辺で自給自足の暮らしをしたい!」と夢見ている人間が一定数存在すると思うからです。
そういう人々にとって、この本は「バイブル」になるでしょう。
あの変なヤツ、食べられるの⁉
さて、私事で恐縮ですが、我が家では十数年前から、毎年夏になると家族で太平洋岸か日本海岸へ1週間程度のキャンプに出かけるのが恒例となっています。新聞記者時代は年に1度の骨休みでしたが、早期退職してからはひと夏に2度3度と海辺に滞在しています。
(例えば2022年はこんな感じ)
その際、僕たちがモットーにしているのは、「可能な限り日々の食材を海で調達する」ということ。
このため、キャンプ中は毎日朝から晩まで、ヤスを握って魚を追いかけたり、岩場で釣り糸を垂らしたりしています。
とはいえ、すばしこい魚はそう簡単に仕留められないし、釣りも空振りの日がある。また、海の生き物の中には漁業権の関係で自由に採取できないもの(サザエ・アワビなど)が結構あります。
そこで重宝するのが「世間一般では食用にされていないけど、食べてみたら結構うまい」という B 級食材の数々です。
防波堤にベタベタ張り付いている小さな一枚貝や巻貝。
岩場に茂っている雑草のような海藻類。
ほとんどの釣り人が「外道」扱いして持ち帰らないヘンテコな小魚。
……
こういう地味で比較的簡単に手に入る生き物のうち、どれが食用に適しているのか、どうやったらおいしく食べられるのかーーーという知識が、この本には満載されています。(なかには人気の魚も登場します)
実は僕、祖父母の家が瀬戸内海の離島にあった関係で昔から海で遊ぶことが多く、この手の知識は誰にも負けないという自信を持っていました。
しかし、8年前にこの本に出会って、その自信が粉々に打ち砕かれました。
ウノアシ、ウラウズガイ、アマオブネ、ヒザラガイ、ムラサキインコ、アメフラシ……。
ページをめくるたび、「え、あの変なヤツも食べられるの⁉」というサプライズの連続。さらに捕獲や調理のコツまで伝授してくれるありがたさ! これ以降、僕たちがキャンプで口にする食材の幅が一気に広がりました。
ちなみに、アメフラシってこういうヤツです。
見た感じは巨大なナメクジ。普通の人ならまず食べようとは思わないでしょう。いや、それ以前に触ろうとも思わないでしょう。
(ちなみに、この写真でアメフラシを持っているのは僕の長男です)
この本を抱きしめて移住したい
しかもこの本、実用的なだけじゃありません。
図鑑の体裁をとってはいますが、説明文のあちこちに著者の体験談や主義主張がまざっていて、これがまた味わい深い。
例えば、ツメタガイという砂地に生息する貝の説明文の一節はこんな感じ。
マテガイ採りのおまけで採れる。(略)マテガイ採りの人の中にはこの貝がおいしいことを知らず、ポイしてるのを見かける。おいしいことを教えてあげ、それでもいらないと言うなら、頂いて帰ろう。
ニホンウナギの説明文はこんなふうに「脱線」します。
今や絶滅危惧種だ。(略) どんな生き物でも餌を食べなければそこでは暮らせない。ウナギの主な餌はエビやカニだ。エビやカニがねぐらにする穴がなくなった。河川改修のせいだ。隙間の多い自然石を取り払ってコンクリートで敷きつめられれば、そこには何もいなくなる。ウナギが消えるのも当然だ。もう一つ、虫を殺す農薬。昆虫は節足動物で、同じ節足動物のエビやカニも親戚だ。田畑にまかれた農薬は川に流れ込み、エビやカニも殺す。今、漁業規制が各地で始まっている。先ずやるべきは自然河川の復元と農薬の規制ではないのか。
いや、全く同感です。
国交省や農水省の役人にこれを読ませてやりたい。
ちなみに、著者の向原祥隆さんは鹿児島県出身の京大農学部 OB。卒業後は東京で働いていたけど、やがて故郷にUターンし、この本の出版元である南方新社を設立したそうです。2021年には本書の続編である「新・海辺を食べる図鑑」も出版しています。
僕は現在、子供の学校の関係で都会に住んでいますが、将来、子供が独り立ちしたら、この本を抱きしめて自然豊かな海辺の町に移住したい。そんなふうに思わせてくれる素晴らしい一冊です。