いよいよ始まった新NISA。
大方の予想通り、米国株や全世界株のインデックスファンドには「新NISA開始後初の約定日」となった1月5日以降、ものすごい勢いで個人資金の流入が始まりました。
試しに証券会社サイトで人気ファンドの純資産総額グラフをのぞいてみると、この日を境に増加曲線がスコーンと上向いたことがわかります。
例えば、昨年10月末に誕生した「楽天・S&P500」ならこんな感じ。
なかなかのインパクトです。
世間には「新NISAで盛り上がっているのは国民の一部だけ」という冷めた見方もありますが、少なくともファンド業界にとっては数十年に1度クラスのビッグイベントになったと言えるでしょう。
しかし当然のことながら、つみたて投資枠の対象になっているインデックスファンドの間にも、「勝ち組」と「負け組」の差が露骨にあらわれてきました。ここ数日間で爆発的に純資産を伸ばしたファンドもあれば、あまり振るわなかったファンドもあります。
そこで今回は、ここまでの資金流入量を見比べながら各ファンドの明暗を探ってみることにします。
各ファンドに流れこんだ資金量は?
まずは下の表をご覧ください。
主なインデックスファンドについて、新NISAによる資金流入が反映される直前の1月5日(金)の純資産総額と、それから1週間が経過した1月12日(金)の純資産総額(単位は億円)を一覧にしたものです。
右端の増加額(資金流入量)を見れば、そのファンドが新NISAで好スタートを切ることができたかどうかが一目瞭然です。ただし、この数字にはNISA口座で買われた分だけではなく、特定口座で買われた分も含まれているので、その点はご留意ください。
やはりeMAXIS Slimシリーズの圧勝
堂々の1位は、eMAXIS Slim全世界株式(オルカン)の+2022億円。
2位は、eMAXIS Slim米国株式(S&P500)の+1756億円。
案の定、三菱UFJアセットマネジメントが誇るeMAXIS Slimシリーズのツートップが圧倒的な勢いを見せつける結果となりました。
3位はSBI・V・S&P500の+422億円。やはりコストの安さだけでなく、規模・実績のそろったファンドは強いという印象です。
一方、eMAXIS Slimシリーズのライバルになるのではないかと目されていた楽天投信投資顧問の2大ルーキー(楽天S&P500と楽天オルカン)も、これらのメガファンドには及ばないものの、それなりに健闘しています。
楽天S&P500は+236億円、楽天オルカンは+189億円をマークし、ともにこの1週間で純資産総額を倍増させました。
意外に今も買われている楽天VTI
意外だったのは、4位に入った楽天VTIです。
信託報酬は0.162%。かつては低コストで全米株式に広く投資できるファンドとして業界の最先端を走っていましたが、ここ数年は信託報酬引き下げ競争から取り残され、いまや「業界最安クラス」とはかけ離れた存在になっています。
楽天投信投資顧問が昨年10月、新NISAに向けた目玉商品として楽天・S&P500を発売した時点で、僕は勝手に「これで楽天VTIは完全に過去の遺物になってしまったな……」と思っていました。
ところが、この1週間でなぜか+322億円という好結果。
より低コストな米国株ファンドが他にいくつもあるなかで、なぜ楽天VTIがこれだけ買われているのか、正直よくわかりません。
強いて想像すると、楽天証券ユーザーの中に「どうしてもS&P500より中小型株も含めた全米株式の方がいい」というこだわりを持つ人が多いのか。(※eMAXIS Slim全米株式は「つみたて投資枠」の対象になっていない。SBI・V・全米株式は楽天証券では買うことができない。)
それとも、数年前から楽天VTIを積み立ててきた人々が今も惰性で買い続けているのか。
あるいは、少し古い投資本を読んで勉強したビギナーが「低コストの米国株ファンドと言えば楽天VTIなのか」と思い込んで買っているのか……。
もっとも、楽天VTIの信託報酬だってアクティブファンドなんかに比べれば断然安いわけだから、細かいことを気にしない人なら別にそれでいいと思います。
ふるわなかった新顔ファンド
さて、これとは対照的に、新NISA開始に合わせて誕生した「業界最安クラス」ファンドの多くには勢いがみられません。
絶対王者eMAXIS Slim全世界株式(オルカン)を脅かす存在になるのではないかと一時話題になった日興アセットマネジメントの「Tracers MSCIオールカントリー」(通称トレカン)、同じく野村アセットマネジメントの「はじめてのNISA・全世界株式」(通称ノムカン)などは、この1週間の資産流入が10億円に届きませんでした。
この結果を見れば、やはり新NISAでも、ある程度の運用実績があるファンドが選ばれている印象を受けます。
新NISA開始早々、これほどはっきりと明暗が分かれてしまった各ファンドの勢い。ここには新NISA利用者たちの「積立設定」の結果が反映されているはずので、劣勢ファンドがこのさき逆転するのは容易なことではないと思います。