政治家の学歴・職歴はハッタリだらけ?

2024/04/14

時事ニュース

このところ小池百合子・東京都知事の学歴詐称疑惑が世間を賑わせています。事情通の方はご存じだと思いますが、この疑惑、もうかれこれ30年ほどくすぶり続けている古典的スキャンダルです。それでも未だに白黒ハッキリしないのだから、人の学歴の真偽を見極めるのって難しいことなんだなあとつくづく感じます。

さて、こういう騒動を見るたびに僕が思うのは、「今の世の中、経歴を偽って政治家になっている人って実は結構いるんだろうな。そういう人は今後ますます増えていくんだろうな」ということです。

なぜ、そう思うのか。

それは僕が新聞記者時代、選挙取材で候補者の経歴確認作業を嫌というほど担当してきたからです。国政選挙と地方選挙を合わせると、恐らくトータルで1000人くらいの経歴をファクトチェックしたんじゃないかと思います。

その経験からいうと、自分の経歴を盛ってキラキラ感を出そうとする不届きな候補者は今も昔も一定数存在します。そして一昔前までなら、そうしたハッタリは新聞社の事前チェックで炙り出されていましたが、近年はそのチェック機能があまり働かなくなってしまったように感じます。



というわけで今回は「今の日本は経歴詐称天国になりつつある」という話をしてみようと思います。(FIREと関係ない話ですみません)


選挙公報は性善説で作られている

まず最初に、政治家たちの学歴や職歴といったプロフィール情報がどのようにして世間に出回るかを説明しておきましょう。

基本的に情報ソースとなるのは、彼らが選挙に出たときに選挙区内の各世帯に配布される選挙公報と、新聞をはじめとするメディアの報道の二つです。

このうち選挙公報は、都道府県の選挙管理委員会が発行する公的な資料です。しかし、ここに掲載されるプロフィールは候補者の自己申告であり、ファクトチェックなんかされていません。

もちろん、年齢・住所・国籍といった基本情報は選挙管理委員会がしっかり事実確認しています。なぜなら、こうした情報はその人が立候補する資格を持っているかどうかに直接関わってくるからです。

でも、学歴や職歴といったプロフィールは立候補資格に関係ありませんから、選挙管理委員会にとっては正直どうでもいい情報です。せいぜい事前の説明会で「選挙公報にウソを書かないで下さいね、バレたら罪になりますよ」と注意を呼びかけるのが関の山。そういう意味で選挙公報というのは性善説で作られていると言っていいでしょう。

しかし、候補者の学歴や職歴がノーチェックで世に出回るって、考えてみれば恐ろしいことですよね。だって、虚言癖のある人間が「ここは東大卒ってことにしておくか」といったノリで選挙公報にデタラメを書いて立候補したら、有権者はそれを信じて彼に投票してしまうかもしれません。

そこで新聞社の出番になるわけです。

かつて記者は経歴をファクトチェックしていた

僕が新聞社で働いていたころ、国政選挙や地方選挙が近づくと、担当記者は立候補が予想される人物に片っ端から会いに行って「調査表」というものを渡していました。これは履歴書みたいなものです。

その調査表に本名・生年月日・住所・学歴・職歴といったあらゆる個人情報を記入してもらって選挙報道の基本資料にするのですが、もちろん記者の仕事はこれだけでは終わりません。そう、候補者が調査表に書いた学歴や職歴のファクトチェックをするわけです。

具体的に言うと、候補者が「1980年3月××大学卒業、1980年4月〇〇銀行入社、2000年4月~2002年3月〇〇銀行△△支店長」と書いてきたら、大学や銀行の広報に問い合わせて、この人物がその年に確かに卒業しているか、確かに在籍していたか、確かに支店長を務めていたかを一つ一つ確認していきます。




国政選挙や都道府県議選・市議選には何百人、何十人という候補者が名乗りをあげますから、膨大な作業量になります。担当記者は何日間もかけてひたすら確認作業を続けることになります。

もちろん、大抵の候補者はきちんと事実を書いているから、先方から「その通りです、間違いありません」という答えが返ってきて一件落着です。しかし、なかにはこうした確認作業の結果、一時的に学籍があっただけなのに卒業したことにしていたり、実際よりも立派な肩書を名乗っていたりしていることが発覚する場合もあります。

あるいは、「新聞に掲載する前にこちらで調査表の内容を事実確認させていただきますよ」と本人に説明した時点で経歴を修正すると言い出したり、「なぜ、そんな身辺調査みたいなことをされなきゃいけないんだ!」と怒り出したりする人もいました。

結果的に、こうした新聞社のファクトチェックが政治家の経歴詐称に対する抑止力になっていたと思います。


個人情報保護法の影響で回答拒否が横行

ちなみに、僕が新聞記者になった1990年代、多くの大学や企業はこうしたファクトチェックに協力的でした。特に名門と言われる大学や大企業ほどしっかり対応してくれる傾向がありました。

当時は「政治家がウソをついていないかマスコミがチェックするのは当たり前」という認識が世の中に浸透していたし、企業や大学の側にも「うちのブランドを悪用されたくない」という意識があったのだと思います。

ところが、2000年代半ばごろから社会の雰囲気が徐々に変わってきました。ファクトチェックの問い合わせをしても「個人情報に関わることですからお答えできません」と回答を拒む大学や企業が急激に増えていったのです。

これは明らかに2005年に施行された個人情報保護法が拡大解釈された影響でした。大学や企業にしてみれば「下手に回答してトラブルになったら面倒だ」「後で政治家から文句を言われたら厄介だ」というわけです。もちろん、以前と同じくファクトチェックに協力してくれる大学・企業もありましたが、その割合は年々減っていきました。

結局、僕のいた新聞社では2010年代後半に「もはや全ての候補者の経歴を100%チェックするのは不可能だ」という結論に至り、記者の人手不足も相まって「経歴チェックはできる範囲でやればいい」というふうに社内ルールが緩められていきました。

こうなると、もうなし崩しです。ただでさえ仕事の多さで疲弊している記者たちは、手間のかかる経歴チェックをどんどん省略するようになっていきました。


ウソが発覚しにくい社会に

残念ながら、僕が事情を知っているのはここまでです。

ご存じの通り、僕は2020年に新聞社を早期退職しました。なので今の新聞業界の状況は詳しく知りませんが、恐らくどの新聞もファクトチェックができていない状態の候補者の経歴を紙面に掲載しているのではないかと想像しています。特に記者の人手不足が深刻な地方の県議選や市議選なんかは、ノーチェックに近い状態に陥っているのではないでしょうか。



僕は今でも「個人情報保護法って世の中を悪い方向に導いたんじゃないだろうか」と思うことが時々あります。もちろん、世の中には守るべき個人情報がたくさんありますが、それと引き換えに本来公開されるべき情報が伏せられてしまうケースが後を絶たないからです。


小池百合子知事の学歴詐称疑惑

さて、以上のような一般論を踏まえたうえで、今話題の小池百合子知事の学歴詐称疑惑にも少し言及しておこうと思います。

小池氏が国会議員に初当選したのは1992年の参院選だから、まだ新聞社が候補者の経歴チェックをしっかりやっていた時代です。にもかかわらず、当選直後から彼女の学歴詐称疑惑がくすぶり続け、今に至るまで決着していないのは、彼女が卒業したと主張するカイロ大学が海外、しかもアラビア語圏にあったためだと思われます。

当時の各新聞社の担当記者がどのような方法でカイロ大学に事実関係を問い合わせ、それに対してカイロ大学がどんな回答をしたのかはわからないけれど、恐らく語学の壁もあって十分な取材を尽くせていなかったのではないでしょうか。

それにしても腑に落ちないのは、学歴詐称疑惑が再燃した2020年都知事選のときのエジプト大使館の動きです。

このときはノンフィクション作家の石井妙子さんが著書「女帝 小池百合子」の中で様々な経歴の矛盾を指摘し、小池氏は窮地に追い込まれました。しかし、エジプト大使館のfacebookに「小池氏はカイロ大を卒業している」という内容の学長名の声明文が掲載されたことで、小池氏の潔白が証明された形となりました。

ところが、このほど文藝春秋に掲載された小池氏側近の証言が事実なら、このときエジプト大使館は小池氏の依頼に応じて、偽の声明文をfacebookに載せたんじゃないかという疑いが浮上してきます。つまり、日本の大物政治家である小池氏と良好な関係を維持した方が得策だと考えたエジプト側が、あえて隠蔽工作に協力したのではないか、という疑惑です。

こうなってくると、もはや通常のファクトチェックで白黒ハッキリさせられるレベルではありません。日本のメディアは総力を挙げてエジプト大使館やカイロ大学、そしてエジプト政府関係者に取材をかけ、この疑惑が事実なのか否かをとことん突き止める必要があるでしょう。

記者の皆さん、大変だろうけど頑張って下さい。




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コロナ禍のなか、45歳で新聞社を早期退職し、念願のアーリーリタイア生活へ。前半生で貯めたお金の運用益で生活費をまかないながら、子育てと読書と節約の日々を送っています。

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