投資家が「オルカン=思考停止」論を歓迎すべき理由

2024/05/07

資産運用

最近のYouTubeやSNSを見ていて感じるのですが、「インデックス投資には学びがない」「オルカンに投資するのは思考停止だ」といった声が、以前より目につくようになってきた気がします

例えば今年3月、「オルカン信者は出世しない」と題したニューズピックス制作のYouTube動画がネットで話題を集めました。



この動画には有名なファンドマネジャーや投資家が登場し、インタビューに答える形で「インデックスに投資しても学びにならない」「(そういう人は)会社でも恐らく出世しない」「オルカン投資は思考停止」などと持論を述べていました。

探してみると、オルカンやS&P500指数へのインデックス投資に疑問を呈するようなタイトルの動画は他にも結構あります。例えばこんな感じ。



この種の動画を見てみると、「なるほど」と思わされる主張に出会うこともありますが、大半は「ずいぶん煽ってるな~」という印象です。(※なかにはタイトルと中身が全然違っているものもあります)

恐らく、こういった言説の流行は現在のインデックス投資ブームに対する「ささやかな揺り戻し現象」なんでしょう。


なぜオルカン=思考停止論が流行るのか

振り返ってみれば、日本では長らく、金融機関の窓口で異様に手数料の高いアクティブファンドが盛んに販売され、何も知らない初心者がカモにされるという状態が続いてきました。

そうした実態が近年、経済評論家の故・山崎元さんや 多くの投資系ブロガー、投資系YouTuberたちによってさんざん批判され、少なくとも投資に関心が高いネットユーザーの間では「一般人が投資するなら分散が効いた低コストのインデックスファンド、それもオルカンやS&P500指数に連動するものが最適解だ」という〈常識〉が形づくられてきました。

その影響力は大きく、今ではeMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)をはじめとするインデックスファンドの売上(資金流入量)が、高コストのアクティブファンドを追い抜き、投資信託業界は低コストファンドの開発競争に鎬を削るようになりました。今や日本の投資環境は、インデックス投資家にとって天国みたいな状態だといっても過言ではありません。

ただ、こうなってしまうとネットメディアにも紙メディアにも「初心者にはインデックス投資がオススメ!」という記事や動画があふれ返り、陳腐化し、新たに同じような情報を発信しても人々の注目を集められなくなってしまいます。すると発信者たちは、あえて世間に逆張りしたコンテンツに活路を見いだそうとします。

それが、ここにきて「オルカン=思考停止」論がクローズアップされている原因ではないか――――というのが僕の見立てです。

(※補足すると、こうしたコンテンツの中には「手数料を稼げるアクティブファンドを守りたい」という金融業界の意向が反映されているものもゼロではないと思います


インデックス投資の皮肉な宿命

では、こうした風潮って憂うべきことなのでしょうか?

実は僕はそう思っていません。むしろ、インデックス投資家にとっては歓迎すべき風潮なんじゃないかと思っています。



なぜなら世の中の全ての人々がインデックス投資を始めると、インデックス投資の優位性が損なわれてしまう、という皮肉な宿命があるからです。

ここからはその理屈を説明していきましょう。

このブログを継続的に読んでくれている方はご存知だと思いますが、僕は4年ほど前に「にわか勉強」して資産運用を始めた「にわかインデックス投資家」です。

その際、いろんな投資本を読み漁ってみたのですが、なかでも役立ったと感じたのが「なぜ投資のプロはサルに負けるのか?」 (藤沢数希著)という1冊でした。

この本には、インデックス投資の優位性とその皮肉な宿命を説明したくだりがあるのですが、それを僕なりに要約・意訳するとこんな感じになります。

(※このブログで以前も紹介したことがある内容ですが、とても興味深い話なので再び紹介させてもらいます)


まず大前提として、現在の株式市場では、個人投資家が運用している資金の量よりも、プロのファンドマネジャーが運用している資金の方が圧倒的に大きいという事実がある。

そして、多くのファンドマネジャーたちは常に市場の歪み(実際の価値とかけ離れた価格で放置された銘柄)を探し続けているので、すべての株にはその時点において限りなく適切な価格がついている。そして、新たな情報が出てくるたびに瞬時にそれが株価に反映される。(この考え方を効率的市場仮説と呼ぶ)。

従って、短期的に見れば、これから株価が上がるか下がるかは、次にどんな新情報が飛び出してくるか次第であり、プロであっても素人であっても予測は不可能。これが「株価はランダムウォーカーである」と言われるゆえんだ。

株価の動きがランダムである以上、勝負は運の要素が強い。したがってファンドマネジャーが運用するアクティブファンドは、コスト(ファンドマネジャーらに支払う報酬)が高い分だけ市場平均より成績が悪くなりがちである。

一方、長期的に見れば、株式市場全体のリターンは平均すると大体年5%以上のプラスになってきたことが過去の統計からわかっている。

これらのことを考え合わせると、我々個人投資家は、プロの腕前に期待してアクティブファンドに投資したり、自分で個々の企業分析に膨大な時間を費やしたりするより、市場全体を縮小コピーした低コストのインデックスファンドを買ってそのまま放置し、市場平均のリターンを取りに行く方が賢明である。

ただし、もし仮にインデックスファンドの優位性が広く世間に認識され、投資家の大多数がインデックスファンドを選択するようになると事情は変わる

そのような市場では、多くのファンドマネジャーがお払い箱になっているから、優良企業の株も無能企業の株も一律に買われて適切な株価がつかなくなる。つまり市場は歪みだらけになってしまう。

すると今度は逆に、生き残った少数のファンドマネジャーが市場の歪みをどんどん探し出すので、彼らの運用するアクティブファンドが優れた成績を収めるようになるだろう――――。


いかがでしょう。

僕が今流行の「オルカン=思考停止」論を歓迎する理由がこれでわかってもらえたのではないかと思います。

要するに、インデックス投資は素晴らしい投資手法だけど、アクティブファンドを全滅させるほどメジャーになってしまったら、その効果が弱まってしまう。だから、世の中にはインデックス投資をディスるような言説が適度に存在するほうが望ましい、というわけです。

ちなみに、経済学には「合成の誤謬」(ごうせいのごびゅう)という言葉があります。

僕みたいなシロートが説明するのもおこがましいのですが、個人レベルでは正しい選択であっても、みんなが同じ行動を取り始めると悪い結果をもたらしてしまう現象のことだそうです。

この言葉、「ある人が節約に励むと家計は楽になるけど、みんなが節約に励みだすと不景気になって、結局家計が苦しくなる」みたいなことを表すのによく使われるのですが、考えてみれば、インデックス投資というのも合成の誤謬に当てはまるのかもしれません。


人間は自信過剰な生き物

さて、ここまで読んでくれた方の中には「インデックス投資ってメジャーになりすぎたら優位性がなくなっちゃうの? それじゃ安心して長期投資できないじゃん」と不安になってしまった人がいるかもしれません。

しかし、この本の筆者の藤沢さんは「その心配はないだろう」と予想しています。その理由を再び要約・意訳してみるとこんな感じです。


大多数の投資家がインデックスファンドを選んでその優位性が失われるというような状況は未来永劫やってこない。なぜなら、人間は「自分は他人より賢い」と考える自信過剰な生き物であり、いつの世も圧倒的多数の人々は銘柄を選定して市場平均より高いリターンを出そうとするからだ。その結果、市場は常に効率的になり(それぞれの株に適正な価格がつくようになり)、インデックスファンドの優位は永遠に続く――――。


いや~面白いですね、この考え方。

確かに、この僕もインデックス投資家を標榜しておきながら、ついつい「この株、上がりそうだな」とか考えて個別株を購入することがよくあります。

さらに言えば、「ウォール街のランダム・ウォーカー」の著者バートン・マルキールや「敗者のゲーム」の著者チャールズ・エリスといったインデックス投資理論の権威筋でさえ、個別株投資に興じているという話があるくらいだから、藤沢さんの予想は多分正しいのでしょう。

まあ、それでも最近のオルカン人気を見ていたら、「そのうちインデックスファンドがアクティブファンドを駆逐してしまう日がやってくるんじゃないだろうな…」と少し心配になってしまいますが。
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コロナ禍のなか、45歳で新聞社を早期退職し、念願のアーリーリタイア生活へ。前半生で貯めたお金の運用益で生活費をまかないながら、子育てと読書と節約の日々を送っています。

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