銀行がすすめる退職金運用プランのカラクリ

2023/01/06

資産運用

 今回は、退職サラリーマンを対象に多くの銀行が用意している「退職金運用プラン」について考えてみようと思います。

インターネットで「退職金運用」などと検索をすると、高金利をうたった退職者向け資産運用サービスを宣伝する大手銀行のサイトが幾つもヒットしますが、こういうサービスって実際のところ、利用するメリットがあるのでしょうか?

その中身を検証しましたので、これから定年退職を迎える方や、早期退職を考えている中高年サラリーマンの方はぜひ参考にしてください。



退職者なら誰でも気になる特別プラン

一つの会社に長年勤めてきた中高年サラリーマンなら、よほどの資産家でもない限り、会社を辞める時期が近づいてくると退職金の運用方法に頭を悩ませるようになると思います。これまでの人生で一度も手にしたことがないくらいのまとまったお金が銀行口座に振り込まれるわけだから当然でしょう。

かくいう僕も3年前、20年余り勤めた新聞社を早期退職して割増退職金を受け取ることになったときは大いに悩みました。退職前はそれこそ日々の仕事もそっちのけで運用方法を考えていたくらいです。

そんな時、僕の目を引いたのが、大手銀行各社が「退職者の悩みを解決」「人生100年時代をサポート」「お金の寿命をのばす」などと盛んに宣伝している退職金運用プランでした。

恐らく、こうしたサービスが気になっている中高年サラリーマンは僕以外にも大勢いるのではないかと思います。社会的信用の高い銀行が、わざわざ退職金にフォーカスして作った特別プランなのだから、それなりのメリットがあるに違いない―――そう感じるのも無理はないでしょう。

しかし、結論から言うと、その考えは間違っています。

こうしたプランの中身を詳しく調べれば調べるほど、誰でもメリットよりデメリットの方が大きいということがわかってくるでしょう。以下、その理由を説明します。


一見、破格の高金利だけど…

まず、退職金運用プランの基本的な仕組みを押さえておきましょう。

大雑把に言えば、この種のサービスの多くは、「ある程度まとまった金額で、投資信託(あるいはファンドラップ)と定期預金をセットで申し込めば、定期預金の利率が通常よりアップする」という構造になっています。

例えば、3大メガバンクグループの一角をなす某信託銀行が提供する特別プランの場合、申し込み条件は500万円以上。このうち半分以上の金額で投資信託を購入すれば、残りの金額で組んだ定期預金の利率が「年7.0%」(税引後5.57%)になると公式サイトでうたっています。

超低金利時代の現在、メガバンクの通常の定期預金金利(店頭表示金利)は年0.002%ですから、これが本当なら破格の高金利です。

ところが、サイトをよく見ると、「年7.0%」と大きく強調した真っ赤な文字のすぐ横に、小さな黒文字で「預入期間3カ月」と書かれています。つまり、破格の高金利が適用されるのは最初の3カ月だけ。4カ月目以降は年0.002%の利率になってしまうわけです。

いや、なんとも紛らわしいですね。

要するに、年7.0%というのは完全な「絵に描いた餅」であって、実際は1年お金を預けておいても元本の7%に相当する利息を受け取ることなんてできないのです。

問題は投資信託の手数料

こう書くと、「最初の3カ月だけでも高金利が適用されるならいいじゃないか」と思う人もいるかもしれません。しかし、ことはそう簡単ではありません。

このプランを利用するには、さきほど述べた通り、定期預金と同額以上の投資信託を購入する必要があります。これが曲者です。

投資信託というのは、複数の株式や債券をセットにして販売する「詰め合わせパック」のような商品ですが、購入時に手数料を取られたり、保有中に「信託報酬」という名の維持管理費を取られたり、何かとコストがかかります。

なかには購入時手数料0円、信託報酬も年0.1%前後という優良な低コスト商品もありますが(こういうのは例外なくインデックスファンドです)、まだまだ少数派。購入時手数料3.3%、信託報酬は年1.8%などという高コスト商品が幅を利かせている世界です。つまり、投資信託というのはピンからキリまである金融商品なのです。

ですから、こういう退職金運用プランの良し悪しを見極めようと思えば、どういう投資信託がプランの対象になっているのかをチェックすることが不可欠です。

ところが、この信託銀行のサイトにはその情報がどこにも見当たりません。代わりにこんな注意書きがありました。

「対象外の投資信託がございます。また、対象となる投資信託は追加・変更を行う場合がございますので、くわしくは窓口までお問い合わせください。」

なるほど。

これで大体、このプランがどういう投資信託を取り扱っているのか想像がつきますね。念のため、この銀行に電話して尋ねたところ、思った通り「手数料無料のものは対象外です」という答えが返ってきました。

3カ月分の利息なんて微々たるもの

以上のことから、このプランのコンセプトが浮かび上がってきます。

一見、破格とも思える定期預金金利を掲げて、退職金で懐の膨れた顧客を窓口に呼び込み、高コストの投資信託を販売する―――。手数料を稼ぎたい銀行にとってはおいしい商売でしょう。

しかし顧客にしてみれば、実際に受け取れる定期預金の利息は大した額にならないうえ、投資信託の手数料をたっぷり絞りとられるわけだから、全く割に合いません。

少しシミュレーションしてみましょう。

あなたが1000万円の退職金をもらってこのプランに申し込み、このうち500万円で投資信託を買い、残り500万円で定期預金を組んだとします。

まず、定期預金の優遇金利によって3カ月後に生じる利息はこうなります。

500万円×7%×3カ月÷12カ月=87500

ここから税金を差し引いたら69725円。これが3カ月後に受け取れる利息です。しかし、その後は優遇金利が適用されなくなるので毎年100円程度の利息しかつきません。

一方、残りの500万円で買った投資信託ですが、こちらは仮に購入時手数料が3%だとすれば、その時点でいきなり15万円が失われてしまいます。さらに、信託報酬が1%なら毎年5万円近いお金が消えていくことになります。

もちろん、投資信託そのものの価格が値上がりすれば、こうしたコストを補って余りある利益を生み出すかもしれませんが、こればかりは相場次第なので予想できません。

いかがでしょうか。

たかだか3カ月間の高金利など、投資信託のコストに比べれば微々たるものだということがわかってもらえたと思います。

銀行側からは「もっと手数料の安い投資信託も扱っている」という反論が出るかもしれませんが、それなら公式サイトで対象商品のリストを明示しておくべきでしょう。

結論、利用する必要はない

ちなみに、ほかの銀行の退職金運用プランも幾つか調べてみましたが、おおむね同じようなカラクリになっていました。中には、対象となる投資信託のリストをサイトで公開している比較的良心的な銀行もありましたが、そこに並んでいる投資信託の顔ぶれを見ると、正直、とても利用する気にはなれませんでした。

念のために付け加えておくと、銀行は営利企業ですから、こういうビジネスモデルで儲けることが絶対に悪いと言うつもりはありません。しかし、僕たち退職者は貴重な資産を守りながら生きていく必要があるわけだから、利用すべきサービスとそうじゃないサービスをシビアに見極めなければいけません。

だから、はっきり言います。

この種の退職金運用プランを利用するくらいなら、ネット証券会社で購入時手数料のかからないインデックスファンドや個人向け国債(変動10)を買った方がはるかにマシです。

もちろん、すべての銀行の退職金運用プランをチェックしたわけではないので、僕の知らない素晴らしいプランがどこかに存在している可能性はあります。そのようなプランをご存じの方がいらっしゃれば、ぜひ教えてください。


〈補足〉銀行によっては、投資信託やファンドラップとのセットではなく、定期預金のみの退職金運用プラン(多くは預入期間3カ月)を用意している場合もあります。こういうプランなら手数料で損をする心配はありませんが、その分、大した優遇金利は期待できません。申し込み手続きのために窓口へ足を運び、その場で投資信託やファンドラップの営業攻勢にさらされる厄介さを考えれば、やはりおすすめしようとは思いません。

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コロナ禍のなか、45歳で新聞社を早期退職し、念願のアーリーリタイア生活へ。前半生で貯めたお金の運用益で生活費をまかないながら、子育てと読書と節約の日々を送っています。

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