さよなら週刊朝日~100年雑誌の栄光と汚点

2023/05/29

新聞業界

 

(※このサイトはアフィリエイト広告を掲載しています)


101年の歴史を持つ「週刊朝日」が、明日(2023530日)発売の最終号をもって休刊します。1922年(大正11年)に創刊された日本最古の総合週刊誌に、ついに幕が下りるわけです。


インターネットの勢いに押されて紙メディア全体がどんどん先細っている昨今、雑誌の休刊はそれほど珍しいニュースではありません。

ここ3年だけを見ても……

「東京ウォーカー」(KADOKAWA1990年~)

「ミセス」(文化出版局、1961年~)

「ワンダーフォーゲル」(山と渓谷社、1975年~)

「週刊パーゴルフ」(学習研究社、1971年~)

「セブンティーン」(集英社、1968年~)

「ボクシングマガジン」(ベースボール・マガジン社、1956年~)

「イブニング」(講談社、2001年~)

「週刊ザテレビジョン」(KADOKAWA1982年~)

……と、名だたる雑誌が次々と姿を消しています。

でも、「日本最古の総合週刊誌」となると、やはり別格。紙メディアに長年親しんできた僕としては特別な感情を抱いてしまいます。

というわけで、今回は週刊朝日への思い、特に僕の印象に残っている同誌の光と影について書いてみます。


時代に足跡を刻んだ雑誌

昨日の朝日新聞に載った特集記事によると、週刊朝日の全盛期は1950年代で、150万部超の発行部数を記録したこともあるそうです。

松本清張がデビューするきっかけとなった懸賞小説を主催したのも、吉川英治が「新・平家物語」を連載したのも、司馬遼太郎が「街道をゆく」を連載したのも、全てこの雑誌だったというから、やはり時代に足跡を刻んだ雑誌だと言っていいでしょう。

それが今や8万部。いかに時代の流れとはいえ残酷すぎる数字です。恐らく今後も雑誌の休刊は続いてゆくことでしょう。


さて、1990年代後半から2020年まで新聞業界に身を置いていた僕の印象を言えば、週刊朝日は正直、それほど存在感を放つ雑誌ではありませんでした。

同じ総合週刊誌でも「週刊文春」「週刊新潮」「週刊現代」「週刊ポスト」、そして月刊誌の「噂の真相」といった面々は、記者として恐るべき存在でした。

権力者のスキャンダルや事件ネタのスクープが掲載されることが多く、書店やコンビニで見かけるたびに中身をチェックしていたものです。

特に「噂の真相」は、検察スキャンダルなど新聞・テレビがタブー扱いするようなネタにも平然と切り込んでいましたから、僕なんかは仰ぎ見るような気持ちで読んでいました。

(※残念ながら「噂の真相」は2004年に休刊、「週刊現代」と「週刊ポスト」は近年スキャンダル路線から事実上撤退。従って、今も権力者のスキャンダルを果敢に扱っているのは「週刊文春」と「週刊新潮」くらいになってしまいました。)

一方、週刊朝日は政治ネタや事件ネタを扱っているものの、良くも悪くも新聞の延長というか、上品というか、びっくりさせられるようなスキャンダルとはあまり縁がないという印象でした。

しかし、そんな週刊朝日が一度だけ、ものすごく輝いて見えた時期があります。

それは2009年。

自民党から民主党への政権交代が目前に迫ったころ、東京地検特捜部が突然、当時民主党代表だった小沢一郎氏の秘書を政治資金規正法違反容疑で逮捕した時です。

栄光の2009年、検察と真っ向勝負

「西松建設事件」の名前で平成史に刻まれているこの事件。

ごく大雑把に言えば、準大手ゼネコンの西松建設から与野党の政治家たちに違法献金がバラまかれていたという話でした。普通なら国民から怒りの声がわきあがり、検察にエールが送られるところです。

しかし、この時はかなり様子が違いました。

最も多くの国会議員が関与していた自民党の関係者は逮捕せず、小沢氏の周辺ばかり執拗に狙い撃ちする検察の異様な捜査姿勢に、多くの国民が「これは政権交代を阻むための国策捜査なんじゃないか……」と疑念を抱きました。

ところが、多くの新聞やテレビは当然検証すべきこうした疑念をほとんどスルーして、検察の尻馬に乗った小沢疑惑報道を展開。報道機関と検察の「密着ぶり」ばかりが際立つようになりました。

僕の勤めていた新聞社も例外ではありません。

「なんで、日本の新聞って、うちも含めてこんなに検察ベッタリなのかなあ」

「そりゃあ、検察に嫌われたらネタもらえなくなるからでしょ」

「でも、こんな報道ばかりしてたら読者に見限られるよ」

「ホントそう思う。俺だって紙面見てて嫌になるもん」

………

当時、同僚とこんな会話を交わした記憶があります。

そんな中、検察を真っ向から批判したのが週刊朝日でした。

フリージャーナリストの上杉隆氏と連携した同誌取材班が、検察から長時間の過酷な取り調べを受けた小沢事務所のスタッフに取材したり、検察OBにインタビューしたりして、いかに強引で恣意的な捜査が行われているかを毎週のように特集記事で報道。

検察庁が発行元の朝日新聞出版に抗議文を送って圧力をかけると、その抗議文を誌面に掲載して徹底的に反論するなど、検察ベッタリ路線だった親会社の朝日新聞社とは一味も二味も違う雑誌ジャーナリズムを発揮したのでした。

ちなみに、週刊朝日の検察批判キャンペーンは政権交代後も続けられ、翌2010年には一連の報道をまとめた「暴走検察」という書籍が出版されました。


確か、この本の帯に付されていたコピーは「小沢一郎vs.東京地検特捜部vs.週刊朝日」。今読み返しても、検察庁という巨大組織に真っ向勝負を挑んだ週刊誌の気概が伝わってきます。

あの頃、僕は30代。赴任先の地方支局で仕事の合間に週刊朝日を読みながら、「新聞記者より雑誌記者の方が面白そうだなあ」などとつぶやいていたものでした。

「ジャニーさん、ありがとう」に失望

しかし今思えば、あれが週刊朝日の輝いて見えた最後の時代でした。

その後の記憶に残る出来事と言えば、「差別記事だ」と批判された2012年の連載「ハシシタ 奴の本性」の打ち切り事件など、マイナスの話題ばかり。

とりわけ失望させられたのが、2019年にジャニーズ事務所のジャニー喜多川社長が死去した際に発行された同誌726日号です。

「追悼ジャニーさん、ありがとう!」「YOU、やっちゃいなよ」と能天気に謳った表紙を見たときは、正直、「うげっ」という気分になりました。


当時は今ほど大きな話題にはなっていませんでしたが、ジャニー氏が長年にわたってタレントの卵たちに性的虐待を繰り返していたというスキャンダルは、週刊文春の報道や裁判所の認定によってすでに「公然の事実」となっていました。

そして、日本の大手メディアがジャニーズ事務所との関係悪化を恐れて、このスキャンダルを報じない構図ができあがっていることも、心ある人々の間で問題視されていました。

なのに、その張本人の死に際して、ここまで露骨な礼賛誌面を作るなんて……。いくら毎週の表紙やグラビアで事務所の世話になっているからといって、さすがにこれはやりすぎでは、と思ったわけです。

まあ、編集部としては「ここで変なジャーナリズム精神を発揮して今後の仕事に支障をきたすより、人気タレントを多数擁する事務所と良好な関係を築いておく方が得策だ」という判断だったのでしょう。

(※念のために補足しておくと、これは何も週刊朝日に限った話ではなく、日本のほぼすべてのメディアに共通する処世術です。例えば、週刊文春と並んでスキャンダル報道に力を入れている週刊新潮も、この話題に限ってはスルー。その理由について、発行元の新潮社がジャニーズタレントとのタイアップ商品を手掛けているからではないかと指摘する報道もあります。また、僕が勤めていた新聞社もジャニー氏の問題をほとんど報じていませんでしたから、僕自身も偉そうなことを言える立場ではありません。)

こういう過去があったものだから、今年4月、元ジャニーズJr.のカウアン・オカモト氏が日本外国特派員協会でジャニー氏による性的虐待の被害を告白し、この問題への世間の関心がこれまでになく高まった時、僕は密かに週刊朝日の対応に注目しました。

すでに休刊に向けたカウントダウン態勢に入っていた同誌が、遅まきながらこのスキャンダルを取りあげ、4年前の礼賛誌面の埋め合わせをするのか。それとも最後まで目をつぶり続けるのか……。

残念ながら、これまでの誌面を見る限り、週刊朝日の選択は後者のようです。

では、明日発売の最終号はどうなのか。

ネット上に公開された予告を見ると、やはり最終号は「振り返り企画」ばかりで、このスキャンダルを正面から取り上げる気配は見受けられません。

ただ、グラビアページに〈東山紀之「自分にウソのない生き方をしたい」〉という項目があるのが少し気になります。ジャニーズ事務所所属の東山氏にこの問題の受け止め方を少し語ってもらって、お茶を濁すということになるんでしょうか……。

ともあれ、明日5月30日、日本最古の総合週刊誌の最終号が全国の書店に並びます。僕も「淡い期待」と「101年の歴史に対する労いの気持ち」を胸に、近所の書店に足を運んでみようと思っています。

(追伸:発売された最終号をざっと読んでみましたが、やはりジャニー氏の問題を取りあげた記事はありませんでした。東山氏のインタビューもこの件には触れていませんでした。ただ、最終号はよく売れているらしく、僕が書店をぶらぶらしている間に完売。その後も店を訪れた老夫婦が「え、もうないの?」と驚いていました。)


自分の写真
コロナ禍のなか、45歳で新聞社を早期退職し、念願のアーリーリタイア生活へ。前半生で貯めたお金の運用益で生活費をまかないながら、子育てと読書と節約の日々を送っています。

過去記事(時系列)

このブログを検索

ブログランキング・にほんブログ村へ

ご意見ご感想 お待ちしています

名前

メール *

メッセージ *

QooQ