楽天証券の投信保有ポイントが復活…でも喜べない

2023/10/30

資産運用

来年1月の新NISAスタートを前にネット証券会社のサービス競争が過熱中ですが、ここ最近、楽天証券の動きに注目が集まっています。

その動きとは、過去のサービス改悪で事実上廃止されていた投信保有ポイント(投資信託の保有残高に応じて毎月付与されるポイント)の一部復活です。

これが楽天ユーザーを大いに喜ばせたらしく、ネット上では「素晴らしい!」「ついに楽天が本気になってくれた!」といった称賛の声が飛び交っています。

でも、僕は正直、この動きを冷めた目で見ています。


一言でいうなら、「いつまで続くかわからないサービスをあまり過大評価しないほうがいい」といったところ。

なぜそう思うのか? 今回はその理由を書いてみることにします。


投信保有ポイントとは

最初に投信保有ポイント制度とは何かを説明しておきましょう。
これは「わが社の証券口座で投資信託を保有していると、その保有残高に応じて毎月ポイントを差し上げます。貯まったポイントでさらに投資信託を買うことができます」というサービスで、複数のネット証券が顧客獲得のために実施しています。

投資信託を持ち続けているだけで毎月ポイントがたまってゆくわけだから、コツコツと長期投資を続けるインデックス投資家にとっては非常に嬉しい制度です。

もちろん、「業界最高水準のサービス」との呼び声が高かった楽天証券も、かつてはこの制度を採用していました。

ところが残念なことに、楽天は2022年4月にこの制度を事実上廃止してしまいました。原因は、同じ楽天グループの携帯電話事業会社「楽天モバイル」が出した大赤字のあおりを受けたためだと言われています。

(※実際、この年は楽天カード、楽天銀行など楽天グループ全体でサービスの改悪が相次ぎました。特に楽天証券では、この投信保有ポイント廃止以外にもサービスの改悪がありました。)

僕自身もそれまでは楽天証券で「つみたてNISA」をしていたのですが、この改悪に失望し、翌年からは、投信保有ポイント制度を堅持しているSBI証券にNISA口座を移すことにしました。ちなみに、SBI証券の投信保有ポイント制度は「投信マイレージサービス」という名前です。

ポイント還元の対象は2本の新ファンド

さて、そんな楽天証券がこのたび(2023年10月27日)、投信保有ポイントを復活させました。

その名も「新NISA全力応援!投信残高ポイントプログラム」。ただし、すべての投資信託がポイント付与の対象になるわけではなく、以下の2本だけが対象になるそうです。

・楽天オールカントリー株式インデックスファンド(信託報酬0.05775%)

・楽天S&P500インデックスファンド(信託報酬0.09372%)

いずれも新NISAスタートを見すえて楽天投信投資顧問が新発売した超低コストのインデックスファンドです。

なお、保有残高に対するポイント還元率(年率)は楽天オルカンが0.0175%、楽天S&P500が0.0341%。

これを受けてネット上では、SBI証券でeMAXIS Slimシリーズを保有している場合の還元率と比較して「全世界株式(オルカン)は互角だけど、米国株式(S&P500)はほんのちょっとだけ楽天が勝ってる!」と喜ぶ楽天ユーザーの声も見られます。

でも、ちょっと待ってください。この新制度、そこまで手放して称賛するような内容でしょうか?

僕の率直な感想を言わせてもらえば、これって、従来から楽天証券で投資信託をコツコツ積み立ててきた「お得意さん」を大切にしていない制度だと思います。


「お得意さん」が浮かばれない制度

そもそも投信保有ポイントというのは、さきほども言ったように長期投資を続けている人にとってありがたい制度です。

たとえ還元率が微々たるものだったとしても、インデックスファンドを長年コツコツ積み立てているうちに保有残高が1千万円、2千万円、3千万円……と大きくなり、もらえるポイントがどんどん増えていく。それを何十年も続けることで、大きな恩恵を受けられるわけです。

ところが、楽天証券は制度を復活させるにあたって、対象を新ファンドに絞りました。

これはつまり、「みなさんが過去に積み立ててきた投資信託には恩恵を与えません。恩恵を受けたければ、もう一度ゼロから積み立てていって下さいね」ということ。

要は、お得意さんの満足度アップを目指すサービス改善ではなく、「新NISAに合わせて今から投資を始めてみるか」と考えているの新規顧客の獲得を狙ったキャンペーンなわけです。


そのサービスに永続性はあるのか

当たり前のことですが、新NISAスタート前夜の今は、証券業界にとって近年まれにみる新規顧客獲得のチャンスです。

NISA口座というのは一度開いたら、その年はもう他の金融機関に移すことはできません。翌年以降に口座を移すにしても面倒くさい手続きが必要になります。だから必然的に、多くの日本人は最初にNISA口座を開いた金融機関を一生使い続けることでしょう。

ということは、証券会社にとってみれば「とにかく最初にウチに口座を開いてもらえるかどうかが勝負」「多少無理してでも新規の客を引き寄せるサービスを打ち出そう」というマインドが働く。こういう流れでサービス競争が過熱し、今回の楽天の動きが出てきたわけです。

ここで僕たちが注意しなければならないのは、それが永続的なサービスなのか、あるいは、一時的な客寄せキャンペーンなのかということでしょう。

新NISAスタートのタイミングに合わせてポイント還元のアメをぶらさげ、投資ビギナーたちをしこたま囲い込んだうえで、数年後にシレッと制度を改悪してしまうのではないか――――。

うがった見方かもしれませんが、楽天グループの過去の動きを振り返ると、僕はこんな疑念をぬぐい去ることができません。


楽天グループの制度改悪の歴史

その最もいい例は、楽天モバイルの料金プランでしょう。

2年ほど前に菅義偉政権のもとで携帯料金の値下げ競争が過熱したとき、楽天は使用状況次第で料金0円となるプランを打ち出して世間を驚かせました。

ところが、早くも1年後には制度改悪で0円プランが消滅。契約者たちから「ふざけんな」と怒りの声があがったのは記憶に新しいところです。

あのとき、「ぶっちゃけ0円でずっと使われても困っちゃう」という三木谷浩史社長の発言を聞いて「そんなこと最初からわかってただろ!」とツッコミを入れたくなったのは僕だけじゃないでしょう。



さらに言えば、楽天証券の今回の新ファンド発売も、僕の胸にモヤモヤしたものを残しました。

楽天投信投資顧問の従来の人気商品は「楽天VTI」「楽天VT」という2本のインデックスファンドでした。ところが、近年の信託報酬引き下げ競争の結果、この2本はコスト面で他社のインデックスファンドに後れを取っています。

新NISAをにらんださらなる引き下げ競争が過熱する中、僕は密かに「楽天VTIや楽天VTも業界最安レベルに値下げしてくるのかな?」と注目していたのですが、ご存じの通りそんなことは起こらず、楽天はまったく別のファンドを作って活路を見いだすという選択をしました。

でも考えてみてください。

「超低コストの新ファンドを発売」といえば聞こえはいいですが、これって要するに「すでに楽天VTIや楽天VTを大量保有している顧客は、信託報酬の引き下げ競争から置き去りにされる」ということでしょう?

本当にお客さんを大切にする気持ちがあるのなら、まずは既存ファンドの信託報酬を下げる努力をするのが先じゃないかと思うのですが……。

(※ちなみに、僕は今でも楽天証券の口座を持っていますが、楽天VTIや楽天VTは保有していません。だから私怨で言ってるわけじゃないですよ、念のため。)


2度あることは3度ある?

以上のような歴史を振り返ると、最初に大ぶろしきを広げて顧客を囲い込み、後でサービス改悪(あるいは置き去り)――――というのが、楽天の行動パターンなんじゃないかという気がして、新NISAに合わせた今回の投信保有ポイント復活も素直に喜べないわけです。

もちろん、取引手数料やクレカ積立サービスなどを総合的に評価すると、楽天証券はSBI証券に次いで優秀な証券会社だと思います。サイトの見やすさや使いやすさの面ではSBIを上回っているとも思います。

でもやっぱり、僕の中では「制度を軽々しく改悪しない」「お客さんを大事にする」というのが重要な評価基準。だから申し訳ないけど、新NISAは予定通りSBI証券で行うことにします。


〈補足〉念のためにフォローしておくと、SBI証券だって投信マイレージの還元率を引き下げたことはあるし、三菱UFJアセットマネジメント(旧三菱UFJ国際投信)だって「eMAXISシリーズ」の保有者を置き去りにして「eMAXIS Slimシリーズ」を立ち上げた過去があるから、楽天だけが悪いわけじゃありません。でもやっぱり、ここ1年余りの間に楽天グループで相次いだサービス改悪はインパクトが強すぎる。要は程度の問題です。

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コロナ禍のなか、45歳で新聞社を早期退職し、念願のアーリーリタイア生活へ。前半生で貯めたお金の運用益で生活費をまかないながら、子育てと読書と節約の日々を送っています。

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