SNSで勃発したNISA肯定派vs否定派の大論争

2023/11/22

NISA

正直言って、これほど興味深い論争を見たのは久しぶりです。

去る11月20日、X(旧Twitter)上のとあるポストのリプ欄で、投資やNISAに肯定的な人々と、否定的な人々のバトルが勃発しました。




論点はいろいろありましたが、突き詰めれば「NISAは国民のためになるのか」「投資って結局ギャンブルなのか」という命題に対する見解の相違です。

両者の議論が噛み合っていたとは言い難いですが、日本人が抱いている投資へのイメージを知るうえでとても貴重な教材だと感じました。

というわけで、今回はこの論争を振り返りつつ、僕の意見を書いてみることにします。


発端となった日経記事への疑問表明

ことの発端は、4000人超のフォロワーを持つヒカスさんという方が発した以下のポストです。

実物をご覧になりたい方はこちら


見ておわかりの通り、日経新聞の記事に対する違和感の表明です。で、その記事というのがこちら。


ごく大雑把に要約すると、今の日本人の平均寿命や老夫婦世帯の平均的な支出額から考えると、老後を安心して暮らすには1億円くらい必要になる。ただし、普通の人(主にサラリーマン)ならその7割くらいは公的年金と退職金で賄えるだろうから、自力で用意しなければならないのは3000万円ほど。これなら2024年にパワーアップするNISA制度を活用すれば十分達成可能だ――――という内容です。

まあ、資産運用の世界ではよく言われる類の話です。

公的年金が老後の収入の核になるというのはその通りだと思うし、かといって、それだけじゃ心もとないというのもその通り。老後資金を準備するために新NISAが大きな武器になりえるという主張も基本的に正しいと思います。

ただ、この記事が想定しているのは、あくまで「普通の人」。つまり平均的な収入を得ている層の話であって、貧困層は対象外です。にもかかわらず、「誰でも手が届く」と見出しでうたうのは言い過ぎかなという気もします。また、公的年金でカバーされる部分もひっくるめて「老後に1億円必要」とぶち上げるのは、読者をミスリードしかねない表現だなと感じました。

とはいえ、ネット記事の見出しというのは「耳目を引いてナンボ」の面がありますから、まあ許容の範囲内でしょうか。日経の読者層を考えると、記事本文も含めておおむね妥当な内容だと思います。

しかし、「NISAをしてみんな儲かるわけ?」というヒカスさんの疑義に反応して、リプ欄には、この記事のみならず、NISA制度や投資そのものに対する否定的な意見が次々と投稿されました。

NISA否定派の声

ざっと目についたものを挙げてみると…

「詐欺師の手口にしか見えないですね」

「殆どの人が損するから儲かる人がいるんでしょう?」

「そんなに美味しい話はありません。相手はプロですから。日本の個人資産を狙ってるのは、米国のウォール街だと思います」

「国として博打を推薦」

「不景気で住む家のローンが払えない人を、銀行関連不動産が狙う世の中。国が投資というギャンブルに国民を誘う」

「当たり前の話で投資は博打!」

「儲からないんでやめた方がいいですよ!絶対損します!」




「今後日銀がETF売却するので受け皿が必要になるので政府は情弱投資家の資金を狙ってますね」

「資金を溶かす人の方が一般的。下手に手を出すものではない」

「そのうち、NISA地獄が露見します」

「保証がないところに投資させるんだから、信用できませんよね!」

「損する人がいるから得する人がいるんです。そもそも株・為替・仮想通貨はゼロサムゲームなんです」

「プロでも年利5%なら良い方だと何かで見たのですが、それなら貯金でも良いと思います」

「絶対に乗ってはいけない。昔政府に個人投資家を増やしましょーって騙され大損した」

「日銀の持ってるETFを個人に移管しようって魂胆では…」

「富裕層やGPIF等が塩漬けにしている株を肩代わりさせようという魂胆でしょね」

「NISAなんて儲かるわけない。もし儲かるなら日本は何もしなくても株買えば大金持ちになるはず。そんなわけないだろ!」

「庶民のお金が投資に吸い込まれると市中の通貨が減るので、実体経済が回らなくなるでしょう。株は上がっても庶民は貧しくなります」

「政府のオススメに今までいいものがあったか考えてみたら結論は出ると思います」

「いつの間に、老後に必要なお金が2000万円から1億円に5倍増したの?」

「NISAってさ非課税をエサに素人を証券市場に放り込み、パニック売りで個人資産を証券会社と玄人投資家や金持ちで吸い取ろうという企みだよ」

「金持ちの養分になるだけ」

………といった感じです。

ご覧の通り、明らかな事実誤認や勘違いが多数含まれていますが、ここで一つ一つ指摘してゆくのはあまりに重労働なのでスルーすることにします。

それよりも、これらの声を見て強く感じるのは、日本人の間に投資に対するマイナスイメージがいかに深く浸透しているか、という現実です。

案の定、このリプ欄にはNISA肯定派から多くの異論反論が寄せられました。

NISA肯定派の声

こちらも、目についたものを並べておきましょう。

「まだ投資のことを『おいしい話』とか言ってる人がいるんですね。これからの時代は投資をする人としない人でどんどん格差が広がっていきますよ」

「このツイートのレス欄みると『あぁ金融リテラシーない人がまだこんなにたくさんいるんだ』と安心できます」

「NISAほど誰でもできてほぼ確実に利益になる方法など無いのに、実に勿体ないです」

「確かに儲かる保証はないですね。ただ、過去100年のデータが今後も続くと仮定すれば、アメリカのインデックスファンドに積立投資していけば儲かります」



「世界経済が成長し続ける限り、やりようはありますよ!」

「投資は個人の自由だけど、年金をあてにしている人って結構、平和ボケしてるよね」

「ある程度の期間、代表的なインデックスに投資し続けている人なら、負けてる人の方が少ないと思いますよ~」

「NISAは単なる非課税制度なので、それ自体が儲かる儲からないではないかと…」

「まずは小額から始められても良いと思うのですが」

「確かに元本割れのリスクもあるけど、価値が下がり続ける現金持っているより全然良いですよ」

「インデックス投資をちゃんと勉強すればいいと思うよ」

「呟き自体やリプライを見て暗澹たる気分になる…。流石にここまで説明されてその感想ならご自由にとしか」

………という感じです。

いやあ、投資やNISA制度に対する意識って見事に二極化してるんだな、と改めて実感しました。

そして、新NISAがスタートする直前のこの時期に、両極の人たちが本音をぶつけ合ったこのリプ欄って、極めて貴重な記録なんじゃないかと思うわけです。

なぜなら、SNSなどで投資談義が盛り上がるのは、大体が投資好き同士の内輪話。こういうふうに肯定派と否定派が同じ土俵で議論する機会って、意外と少ない気がするからです。

(※ただ、その貴重な議論の場を作ってくれた当のヒカスさんは、この論争をあまり好ましく思っていないらしく、「投資やってる感じの人から、リプ来るの、ウザ」とポストしていました。)


日本人に投資アレルギーを植え付けた犯人は?

さて、ここからは、この論争を見届けた僕自身の意見を書こうと思います。

このブログを継続的に読んでくれている方ならご承知だと思いますが、僕はNISA肯定派であり、インデックス投資愛好家です。さらに言えば、このたびのNISA大幅改革は、あらゆる面でダメダメな岸田政権が唯一実行した「良い政策」だと思っているくらいです。

なので、今回の論争を見ていても、僕はおおむねNISA肯定派の方々の声に共感しました。これだけ国力が衰退し、インフレ・円安が進みつつある日本で、NISAを利用せず、投資そのものを頑なに拒み続けるというのは、イバラの道を行く選択じゃないかという気がしています。

ただ、否定派の方々がNISAをうさん臭く思う気持ちもよくわかります。

なぜなら、僕自身もほんの4年前くらいまでは投資に無関心であり、むしろ「投資なんてやらないほうがまし」と考えていたからです。

振り返ってみると、僕を含めた多くの日本人の頭に強烈な投資アレルギーが染みついている最大の理由は、あまりにも粗悪なボッタクリ投資商品が世の中に氾濫していることだと思います。

バカ高い購入手数料を取るアクティブ型投資信託、元本を削りながら分配金を出す毎月分配型投資信託、素人にはリスクが理解しにくい複雑な仕組み債、そして、これらを言葉巧みに勧めてくる証券会社や銀行の営業マン……。

こういう商品に手を出して損をした人の噂やニュースを耳にするたびに、「ああ、投資なんて関わらないのが一番だな」と考えるようになるのが普通でしょう。僕も40代半ばを迎えるころまでは、ずっとそんな感覚でした。

ただ、僕の場合、44歳のときに「どうしても早期退職したい」という欲求が芽生えたため、必要に迫られて資産運用をにわか勉強した結果、「投資=絶対ダメってわけじゃないんだな」「むしろ全資産を円預金にしていることの方が危険なんだな」と考えるようになりました。(くわしくはこちら

でも、もしもあのとき、早期退職という強烈な動機が生じなければ、恐らく今に至るまで投資に無関心なまま「NISAなんて…」と敬遠する側にいたような気がします。だから、NISA否定派の方々を頑迷な人たちだと切り捨てる気にはなれません。

むしろ、長年にわたって国民にボッタクリ商品を売りつけてきた金融機関、それを野放しにしてきた監督官庁や政治家たちに憤りを覚えます。

というわけで、この論争を見た率直な感想を一言でいうと、「日本の金融機関が犯してきた罪は限りなく重い。せめて今後は、新NISAの成長投資枠でボッタクリ商品を売りつけるような営業を慎んでほしい」といったところです。

投資がギャンブルなのは事実、ただし…

それからもう一つ、今回の論争で焦点になった「投資は結局ギャンブルなのか」という命題についても僕の意見を書いておきます。

さきほども言った通り、僕はインデックス投資を実践していますが、「投資なんてギャンブルだろ」という指摘についてはその通りだと思っています。

だって、ギャンブルという言葉が「勝てば得をする、負ければ損をするという前提で運の要素が入った勝負をすること」を意味する以上、インデックス投資だろうと、個別株投資だろうと、パチンコだろうと、ギャンブルであることに変わりはありません。





もちろん、自分の資産を円のまま銀行に預けておく行為だって立派なギャンブルです。デフレになれば得をし、インフレになれば損をするという博打なんだから。

つまり、資本主義社会で資産を持っている人間は、本人が望もうと望むまいと、みんな何かしらのギャンブルに参加していると言っていいでしょう。(※もちろん、その中にはゼロサムゲームも非ゼロサムゲームもあります。)

ここで重要なのは、それぞれのギャンブルの長期的な勝率です。

例えば、6面のうち1面が「勝ち」、5面が「負け」になっているサイコロを、100回、1000回、10000万回……と転がし続けると、勝率は限りなく6分の1に近づいていきます。これがこのサイコロの長い目で見た勝率です。

同じように4面が「勝ち」、2面が「負け」のサイコロを転がし続けると、勝率は限りなく6分の4に近づいていきます。さきほどのサイコロよりこっちの方が優秀です。

資本主義社会で生きる人々が必ず何らかのギャンブルに参加しなければならない運命にあるのだとしたら、僕たちが心がけるべきことは、なるべく勝ちの面が多いサイコロを選ぶこと。つまり、長期的な勝率の高いギャンブルに参加することです。

そう考えたとき、自分の資産をすべて円預金にしておくのは、決して良い選択とは思えません。なぜなら、歴史上、どこの国でも時代とともに少しずつインフレが進んでいくのが普通だからです。

じゃあ、一番勝率が高いギャンブルって何だろう?

恐らく、その答えは永遠の謎だと思いますが、僕の場合、少なくともこれまでに聞きかじった過去の統計データや今の社会制度を見る限り、世界各国の企業の株式に広く浅く分散投資するインデックスファンドに資産の何割かを投じ、NISA口座で長期保有するというのが最も勝率が高そうだな――――と感じるので、インデックス投資を実践しているわけです。

(※より正確に言うと、単なる勝率に加え、リスク・リターンのバランスも加味した総合評価が最も高そうだな、と感じるので)

だから、NISA否定派の方々に「投資はギャンブルじゃないよ」などと反論することはとてもできません。

強いて自分のスタンスを説明するとしたら、「インデックス投資は僕にとって最も勝率が高そうに見えるギャンブルなんだよ」と言うのが精一杯でしょう。

以上、NISA肯定派vs否定派の論争を眺めながら考えたことをツラツラと書いてみました。みなさんはどう思いますか?







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コロナ禍のなか、45歳で新聞社を早期退職し、念願のアーリーリタイア生活へ。前半生で貯めたお金の運用益で生活費をまかないながら、子育てと読書と節約の日々を送っています。

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