FIRE潰し? 金融資産課税という悪夢が現実化し始めた

2023/12/08

税金

(2024年2月9日更新) 


2024年7月の新札発行に合わせて日本政府が預金封鎖を強行し、国民の個人金融資産を奪いにくるんじゃないか――――。

ここ数年、こんな噂をネット上でチラホラ見かけます。いわゆる金融資産課税というやつです。


この噂が発生する背景には複数の要因があります。

・日本政府は今、世界ワーストクラスの財政難に陥っている。

・この財政難は社会保障費の増加によって今後ますます悪化しそうである。

・旧札から新札への切り替えは資産課税を実行する絶好の機会になりうる。

・日本政府には1946年に預金封鎖を強行した「前科」がある。

・日本政府は近年、国民の個人資産を把握するマイナンバー制度をゴリ押ししている。

……といったところです。

つまり、借金で首が回らなくなった日本政府が状況を打開するため、78年前の先例にならい、新札発行のタイミングに合わせて金融機関の個人口座にある預貯金や株式・債券を一斉に凍結する。そして、これらの金融資産に「資産税」を適用して一部を没収する――――というシナリオです。

もちろん、国民のタンス預金に対しても課税すべく、政府は「タンス預金がある人は申し出なさい」とお触れを出します。普通ならこんなお触れに従う人はいませんが、「まもなく旧札はただの紙クズになりますよ。新札に交換してほしかったら今すぐ申し出てくださいね」と言われたらどうでしょう。泣く泣く従うしかありません。

こうやって、政府はまんまと国民の金融資産の一部をむしり取って国庫に納め、莫大な借金を帳消しにするのではないか、というわけです。

いやはや、なかなか恐ろしい噂ですが、僕はこれまで「さすがにこれは陰謀論の類だろう」と一笑に付してきました。いくらなんでも21世紀の今、先進国の一員であるこの日本でそんなことが起きるわけないだろう、そもそも事前の法改正なしでそんな乱暴なことはできないだろう、と。

ところが、ここ最近のニュースを見ているうちに、「この種の噂って、あながち荒唐無稽な与太話とは言えないんじゃないか……」という思いが脳裏をよぎるようになってきました。

もちろん、2024年7月の新札発行のタイミングで預金封鎖が起こるなどとは微塵も考えていませんが、近い将来、政府が合法的な手順を踏んで金融資産税を導入し、国民の預貯金や保有株式に直接手を突っ込んでくる可能性は結構高いんじゃないかと心配になってきたわけです。

そこで今回は、僕にこんな心配を抱かせた最近の嫌なニュースについて考察します。


金融資産に応じて負担が増える!?

そのニュースとはズバリこちらです。

高齢者の社会保障負担、金融資産を加味検討 政府改革案〉(2023年12月5日、日経新聞)

ごく大雑把に要約すると、社会保障費の財源不足を補うために、たとえ収入が少なくても、金融資産をたくさん持っている高齢者にはより大きな負担を求める、という制度改革案を政府が示したという内容です。

では、政府はどうやって国民1人1人の金融資産を把握するつもりなのでしょうか?

その答えは、もちろんマイナンバー制度です。今回、経済財政諮問会議で示された政府資料にはこんな風に記されています。(※クリックするとクッキリ見えます)


改革工程の素案 P16


堅苦しい役人言葉ですが、要するに「そのうちマイナンバーで国民の金融資産を把握できるようになるから、それを負担に反映させればいいじゃん」というわけです。

ご存じの通り、マイナンバー制度が完成すれば、僕たちの銀行口座や証券口座はすべてマイナンバーに紐づけられ、国民の金融資産は丸裸にされてしまいます。そう、これほど評判の悪いマイナンバー制度を政府がゴリ押ししてくる理由は、こういうところにあるのです。

さてみなさん、この政府案をどう思いますか?


SNS上を飛び交った悲鳴

そもそも、この社会保障改革の目的は、医療や介護にかかる費用負担が若い世代に偏り過ぎている現状を改善することです。なので、高齢世代にも費用をもう少し分担してもらおうという方向性自体は間違っていないと思います。

しかし、その方法として、収入の大小ではなく、金融資産の大小に応じて負担を決めるというのは、まさに金融資産課税の思想です。

「貯めこんでる奴からたくさん取る」と言えば聞こえはいいですが、はっきり言って、これは国家による個人資産の収奪を容易にするなかなか危険な発想です。岸田総理が就任当初に掲げていた金融所得課税の強化よりもはるかにタチが悪い。

案の定、このニュースが報じられると、SNS上には、高齢世代の負担増を歓迎する声に交じって、事実上の金融資産課税じゃないかと憤る声が相次ぎました。


「高齢者憎しでこれに賛同コメント多くなるだろうけどね(中略)若い世代も投資で自己防衛する意味がなくなるし、よく考えた方がいい」

「これ、貯金税ってやつなんじゃ…?! 将来年金出るかもわからないのに、老後資金貯めたらそこから徴税しますよ!って?! 冗談じゃない」

「同じ収入を得て退職しても、贅沢に浪費してきた人には負担がなく、離職後に備えて節制、貯蓄してきた人は負担が重くなる。二重課税の矛盾」

「老いたアリは老いたキリギリスを養えってことか…」


率直に言って、僕もこれらの声と同じ意見です。

なぜなら、個人の金融資産というのは、その人が働いて得た収入の中から税金を納め、そのうえで手元に残った資産だから。その資産に対してさらに負担を強いるとなったら、それはもう税金の二重取りです。

(※正確に言うと、今回議論されたのは社会保障負担であって税金ではありません。ただ、金融資産の額に応じて社会保障負担を課すという制度が実現すれば、次は当然、金融資産の額に応じて税金を課すという流れになるでしょう。)


節約したらバカを見る社会

さらに言えば、SNS上の声にもあった通り、金融資産課税には「節約した人がバカをみる」という極めて不合理な側面があります

そもそも税金とは基本的にキャッシュフローに対して課すものです。その目的は「所得の再分配」だから、稼ぎの大きい人(強者)が稼ぎの小さい人(弱者)より多く負担するのは当然。だから、所得税の累進制度は理にかなっています。

そして、それでも埋まらない経済格差を縮めるために、日本では世代を超えて資産を移動させる際に相続税が課されます。

しかし、金融資産課税となると全く話が違ってくる。

その人が今、どれだけの金融資産を持っているかは、必ずしもその人の稼ぎや親の経済力だけで決まるわけではありません。もちろんそういう要素も影響しますが、それと同じくらい、あるいはそれ以上の割合でその人の暮らしぶりが影響します。

若いころから節約を心がけてきた結果、自分より高収入の人よりも沢山の老後資金を蓄えることができたという人は大勢います。しかし、その結果、人より負担が増えてしまうとなったら、「節約なんてバカバカしい」という風潮が広がるでしょう。

ここで私憤を交えて言わせてもらえば、こんな制度が導入されてしまうと、「人生の前半で労働と節約と投資に最大限励み、貯えた資産をもとに人生後半は悠々自適の生活を送る」という生涯設計――――つまりFIREという生き方――――は極めて実現困難になってしまいます。


実際、SNS上にはこんな声もありました。



まったく同感です。

一体なぜ、こんな乱暴な案が政府から突然飛び出して来たんでしょうか?


金融資産課税は周到に準備されている?

実はこの政府案、よくよく調べてみると、今回いきなり表に出てきたわけではないようです。

2023年11月1日に財務省で開催された財政制度等審議会の会合で、すでにこんな資料が配布されていました。(※クリックしたらハッキリ見えます)




ここには「マイナンバーを活用して、金融資産の保有状況も勘案して、負担能力を判定するための具体的な制度設計について検討を進めていくべき」と、より強い調子で書かれています。

この資料を作成したのは、恐らく審議会の事務局を務める財務省の官僚たち。つまり、「マイナンバーで事実上の金融資産課税へ突っ走れ」(かなり意訳)というのは、財務官僚たちの一貫した本音なのでしょう。

それはすなわち、財務省と関係の深い旧自民党宏池会(2024年に解散)の本音であり、ひいては岸田政権の本音だと思われます。

いやはや、本当に油断ならない政権です。

誤解がないよう補足しておくと、僕は別にすべての負担増に反対というわけではありません。財務省が重視する財政規律はとても大切だと思っています。所得税の「1億円の壁」が問題なのであれば、金融所得に対して累進課税を導入してもいいと思います。

でも、いくらなんでも国民の貯えに国家が直接手を突っ込むような金融資産課税には大反対です。

そもそも、税金の無駄遣いを続けながら国民に負担増を求めるところに無理がある。

東京五輪、大阪万博、政治家の国葬……

本当に財政規律が大切だと考えているのなら、なんでこういうことに政府はジャブジャブと税金をつぎこむのでしょう。

原発事故の処理汚染水を海に流しながら、一方で海産物の風評被害対策に何百億円も支出するというのも、いかにも愚策に思えます。それから……まあ、これ以上書いたら、このブログが政治ブログになってしまいそうなのでやめときます。

とりあえず、僕が言いたいのは「自民党と財務省は金融資産税の導入に向けて周到に準備を進めているフシがある」「そんなことになったらFIREという生き方は今よりずっと実現困難になる」ということです。

何かいい対策はないものでしょうか……。


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コロナ禍のなか、45歳で新聞社を早期退職し、念願のアーリーリタイア生活へ。前半生で貯めたお金の運用益で生活費をまかないながら、子育てと読書と節約の日々を送っています。ただいま49歳。

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