ウツボ戦記(中)~式根島編

2024/06/14

旅・アウトドア

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2022年夏、僕は自作した〈ウツボ仕掛け〉を携えて式根島に上陸しました。東京から160km南の太平洋上に浮かぶ美しい島です。

式根島観光協会の公式サイトより


僕がこの島を選んだのには理由がありました。

今を去ること30年前の大学時代、夏休みにこの島へ海水浴に行った友人のG君が「めちゃくちゃ綺麗な海だった。泳いでいたら大きなウツボがいたよ」と話していたのを覚えていたからです。

当時の僕は今ほどウツボに取り憑かれていませんでしたが、それでも式根島の名前は脳裏にしっかりと刻まれ、僕の中で「ウツボといえば式根島」という認識が形づくられていたのです。

実を言うと、今回の式根島遠征も、当初はこのG君と一緒に出かける予定でした。

僕が「一緒に式根島へ行かないか」と誘うと、釣り好きの彼は多忙なサラリーマンであるにも関わらず、「よしきた」とばかりに長期休暇を取得してくれました。ところが、出発直前になって彼が新型コロナウイルスに感染。やむなく僕1人で島に渡ることになったのです。


あまりに豊かな式根の海

10時間を超える船旅の末に到着した式根島は、噂にたがわぬ素晴らしい島でした。

海は青く澄み、入り組んだ海岸線が幾つもの入り江を形づくっています。さっそくリサーチを兼ねてあちこちの入り江で素潜りしてみると、カラフルな熱帯魚をはじめとする多種多様な魚に出会うことができました。

僕は手始めに、大浦という入り江で魚突きにトライしてみることにしました。

ここ式根島では、毎年夏に東京から大勢の海水浴客が訪れるため、海のレジャーに関する細かいルールが定められています。例えば、ヤスを使った魚突きは、ほとんどの海域で禁止され、この大浦だけで例外的に認められています。

僕が式根島にやってきたのは夏の終りごろだったので、ありがたいことに海水浴客の姿はまばらでした。ヤスを手に海に入った僕は、浜辺から数十メートル離れた入り江の出口付近が狙い目だろうと目星をつけ、その辺りを泳ぎ回ってみました。

すると早速、岩礁の陰に細長い魚影が。ヤガラです。

幸い、向こうはこちらの存在に気づいてなかったので、そっと近づいてヤスを一閃。ズンッという手応えとともに、この島で最初の獲物を仕留めることができました。




この日の夕食はヤガラの醤油焼き。宿の調理場を使わせてもらいました。

幸先の良いスタートに満足した僕はその翌日、いよいよ今回の旅の目的であるウツボの捕獲作戦に乗り出すことにしました。


ウツボ仕掛けの威力

僕が選んだ場所は、大浦とは別のとある入り江。岩だらけで、深さも十分あり、最もウツボがたくさんいそうな海底地形だなと、前日のリサーチで目を付けていたポイントです。

まずは島の釣具屋で購入したキビナゴをエサに「泳ぎ釣り」で15cm程度の熱帯魚を釣る。その熱帯魚をナイフで適当な大きさに切り分け、ウツボ仕掛けの針に引っ掛けて、泳ぎながらウツボを狙います。

……といってもなかなかイメージしづらいだろうから、こちらの図解を再び掲げておきましょう。



こんな感じで、海底の岩穴に潜むウツボを誘い出して釣るわけです。

狙ったポイントは、やはり入り江の出口付近の岩礁帯。ほぼ垂直に切り立った海中の岩壁に沿って5mくらいの深さまで仕掛けを沈め、突き出た岩棚に着地させました。

僕自身はそのまま海面に浮かび、シュノーケリングしながら海中の様子をうかがいます。すると、ほどなくして岩陰から1匹のウツボが姿を現しました。

こんなに早く現れるとは、さすが式根島!

見たところさほど大物ではありませんが、ウツボというだけで興奮が走ります。

そいつはしばらく警戒気味にエサの熱帯魚を観察していましたが、やがてガブリと噛みつきました。しかし、なかなかウツボの顎に釣り針がフックしません。ウツボは角度を変えながら何度も噛みつきます。

恐らく、キビナゴをそのままエサにしていたら、この時点で簡単にウツボに奪われていたでしょう。というのは、イワシやキビナゴといった身の柔らかい小魚だと、ウツボの攻撃で簡単にちぎれてしまい、釣り針から外れてしまうのです。

しかし、このときエサにしていたのは、身も皮もそれなりに丈夫な熱帯魚。少し噛まれたくらいではちぎれないし、針から外れることもありません。

やがて、エサに噛みついたウツボが激しく身をよじらせました。この反応は釣り針がウツボの顎にフックした証拠です。

もらった!

勝利を確信した僕はナイロンロープを巻き上げ、獲物をたぐり寄せます。間近で見るそのウツボは体長50cmほど。決して大物ではないけれど、ここ式根島でも僕の仕掛けが有効であることが証明されました。

ところが……

ウツボを引っ張りながら意気揚々と岸辺まで泳ぎ帰った僕の目の前で、信じられないことが起こったのです。


衝撃の「ひったくり事件」

それは僕が波打ち際に到着し、岸辺の岩に置いたバケツに手を伸ばそうとした瞬間の出来事でした。

もう片方の手で握っていたウツボ仕掛けのナイロンロープが、突然、強い力で海の中に引っ張られたのです。さすがに転倒することはありませんでしたが、不意を突かれて思わずバランスを崩しそうになりました。

一体何事かとロープの先を見ると……

なんと、さきほど仕掛けにかかった50cm級のウツボの尻尾に、さらに大きなウツボが喰らいついているではありませんか!



思わずわが目を疑いました。これは正真正銘の共食いです。さらに言えば、ひったくり未遂事件です。

こいつ、人間が怖くないのか?

頭のネジが吹き飛んでるのか?

背筋がゾクリとするような戦慄を覚えつつ、僕は8年前と同じことを考えました。

これはチャンスだ。何とかしてこいつを捕獲してやろう――――

つづく

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コロナ禍のなか、45歳で新聞社を早期退職し、念願のアーリーリタイア生活へ。前半生で貯めたお金の運用益で生活費をまかないながら、子育てと読書と節約の日々を送っています。ただいま49歳。

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