徹底推理! ジャニーズNG記者リスト事件の謎 Ⅱ

2023/10/10

時事ニュース

それでは予告通り謎解きを始めましょう。前回の記事で示した3つの謎のうち、最初に取りあげるのはこちらの謎です。


① 司会者は本当にリストに関係なく質問者を選んでいたのか?


ご存じの通り、10月2日のジャニーズ会見を司会者として仕切ったのは、元NHKアナウンサーの松本和也氏(株式会社マツモトメソッド代表取締役)です。


彼は問題発覚後ずっと沈黙を続けていましたが、10月6日になって突然、「私はリストに関係なく質問者を指名した」という趣旨のコメント(全文はこちら)を発表しました。

果たして、この釈明は信用できるのか。その辺りを検証していきます。



指名NG記者リストと指名候補記者リスト

それではまず、リストに掲載されていた「指名NG記者」たちの顔ぶれと、記者会見で実際に指名されたの質問者たちの顔ぶれを見比べてみることにしましょう。

ここで参照させていただくのは、写真週刊誌FRIDAYが10月5日にスクープしたリストの現物です。


このリスト、10月2日の記者会見終了後、主催者側の内部告発者とみられる人物から複数のメディア関係者へ密かに提供されていましたが、それらのリストにはいずれもモザイクがかけられ、具体的な記者の顔ぶれが判別できないようになっていました。

10月4日にNHKがリストの存在をスクープした段階でも、実際にどんな記者がリストアップされていたかは明らかにされず、当のジャーナリストたちでさえ「ひょっとして俺かな…」などといぶかしんでいる状態でした。

そんな中、いち早く「モザイクなしリスト」を入手し、世間に公表したのがFRIDAY。まさに雑誌ジャーナリズムの面目躍如といったところです。

それではリストの中身を見てみましょう。

「指名NG記者」(書面上の表記は「氏名NG記者」)、つまり「こいつらに質問させちゃまずい」と認定されていたのは以下の6人です。
(敬称略)


・望月衣塑子(東京新聞記者、ArcTimesキャスター

・尾形聡彦(ArcTimes編集長、元朝日新聞記者)

・佐藤章(一月万冊レギュラー、元朝日新聞記者)

・本間龍(一月万冊レギュラー、作家)

・鈴木エイト(統一教会問題に詳しいジャーナリスト)

・松谷創一郎(芸能界の裏側に詳しいジャーナリスト)

(※「ArcTimes」と「一月万冊」はYouTubeで活動しているネットメディアです。両方ともジャニーズ事務所の性加害問題を積極的に取り上げているので、主催者側が神経をとがらせていたものとみられます。


一方、この資料にはNG記者とは逆の「指名候補記者」(書面上の表記は「氏名候補記者」)もリストアップされていました。
「この人たちに質問させるのが望ましい」と主催者側に認識された「推奨銘柄」のような人々です。その顔ぶれは以下の通り。
(敬称略)


・読売新聞T記者

・日本経済新聞S記者

・日経ビジネスO記者

・東洋経済Y記者

・ロイター通信S記者

・NYタイムスU記者とM記者

・藤森祥平(TBSアナウンサー)

・駒井千佳子(芸能リポーター)

(※NYタイムスを2人とカウントすれば「指名候補記者は9人」と解釈することもできます。ただ、1社1問ルールの下ではNYタイムスの質問者は1人に絞られるので、僕もFRIDAYと同じく「指名候補記者は8人」と解釈して話を進めることにします。)


司会者が実際に指名したのは…

では次に、司会者の松本和也氏が実際にどういう記者を指名したのか見てみましょう。

YouTube上に公開されている記者会見のノーカット動画を見返しながら一つ一つ確認していこうと思っていたところ、すでにこの面倒な作業を済ませ、リストとの照合結果をSNSで公開してくれているジャーナリストがいました。

今年3月にガーシー密着本「悪党」(講談社)を出版して注目を集め、最近はジャニーズ事務所と大手メディアとの関係を検証する記事を放ち続けている伊藤喜之氏(元朝日新聞記者)です。

ここでは彼に敬意を表しつつ、その照合結果を活用させていただくことにします。


伊藤喜之氏のX投稿より


以下は、伊藤氏の投稿内容をもとに作成した質問者の一覧表です。

(〇は指名候補記者リストの人物、▲は指名NG記者リストの人物、敬称略)

1番手 〇東洋経済Y 2番手 〇リポーター駒井 3番手  フリー柴田 4番手 〇TBS藤森 5番手  フリー秋山 6番手 ▲一月万冊佐藤 7番手  ラジオニッポン 8番手  赤旗日曜版 9番手  リハック高橋 10番手  プレジデント 11番手  リポーターシマダ 12番手  フリー白坂 13番手  カイユー 14番手 〇ロイターS 15番手  フライデー荒木田 16番手  フジテレビ木村 17番手 〇日経記者S 18番手  ニューズウィーク 19番手  東京中日スポーツ 20番手  フリー渋井 21番手  ライター菊池 22番手  実話ナックルズ菊池 23番手  リポーター石川 24番手  IWJ記者


これは偶然なのか? 異常な確率

いかがでしょうか。

まず目につくのは、「指名候補記者」の面々がかなりの高確率で指名されている、という事実です。

実に8人中5人。62.5%の指名率です。

ちなみに、この記者会見に出席したペン記者(質疑応答に参加して原稿を書いたりする記者)は計167人。この中から松本氏に指名されたのは計24人だから、全体の指名率は14.37%。

比較すると、「指名候補記者」の指名率がいかに高いかがわかります。

しかも、です。

最も多くの視聴者の目に触れるであろう1番手と2番手の質問者が、ともに「指名候補記者」の中から連続して選ばれている点は見逃せません。

これが偶然の出来事だとすれば、その確率は単純計算で8/167×7/166=56/27722。なんと0.20%ということになってしまいます。

さすがにこれを偶然で片付けるのは無理があるでしょう。

さらに言えば、そのあと1人だけリスト不掲載の人間をあいだに挟み、4番手に指名されたのも、やはり指名候補リストの人間(TBS藤森アナウンサー)でした。つまり、冒頭の質問者4人のうち3人が「指名候補記者」だったわけです。

ちなみに、この間に挟まれたリスト不掲載の人間(3番手の質問者)は、フリージャーナリストの柴田優呼氏です。彼女はその時の印象をSNSでこう振り返っています。



(※この柴田氏の投稿は、先に挙げた伊藤喜之氏の投稿に対する返信です。書き出しが「伊藤さん」となっているのはそのためです。)

つまり、司会の松本氏が3番目にして初めて「指名候補記者」以外の人間(柴田氏)を指名してみたところ、その人間が思いのほか厳しい質問をした。これはいけないと思った松本氏は、すかさず指名候補リストに載っている安全パイのTBSアナを指名して悪い流れを断ち切ろうとしたのではないか――――と柴田氏は疑っているわけです。

もちろん、これはあくまで疑惑です。

しかし、質疑応答の冒頭から「指名候補記者」たちが異常な高確率で指名されていたのは紛れもない事実。この状況を見る限り、少なくとも質疑応答の序盤において、松本氏がリストに沿って質問者を選んでいたことは疑いようがありません。

「松本さん、これでもフェアにやったと言い張れますか?」とツッコミたくなるところですが、ここで改めて彼のコメントを読み返してみると、面白いことに気づきます。

どうやら松本氏、こうしたツッコミを想定していたらしく、「逃げ道」を用意しているのです。


コメントに隠されたカラクリ

ここは大事なところだと思うので、少し長めにコメントの原文を引用してみます。


1. 報道されている「記者の顔写真入りのリスト」は司会のとき持っていたのか


FTIコンサルティングさまから発表された通り、私の手元にありました。スタッフの人から会見の30分ほど前に渡され、顔写真が載せられているうちの何人かの記者やリポーターの方の座っている場所も伝えられました。

しかしその際、この順番でこの人に聞くようにという具体的な指示はありませんでした。


2. 指名はそのリストにそって行ったのか


行っていません。理由は、会見2日前の打ち合わせのときに、この記者は指名NGというやりかたはよくないという旨の井ノ原さんたちの発言を直接聞いていたからです。どんな厳しい質問に対してもできる限りきちんと答えたいという姿勢がはっきりと見られたので、会見ではそれを尊重すべきだと思ったからです。

そこで私は、会見が始まってすぐ、リストはないものとして進行することに決めました。


いかがでしょうか。

一見すると、「開始30分前にリストをもらったけど、私は自分の判断で、一貫してフェアに指名を行いました」と主張しているような印象を読み手に与える文章ですが、実はカラクリがあります。

それが最後の1文の「会見が始まってすぐ」という表現です。

これを厳密に解釈すると、松本氏が「リストに関係なくフェアな司会をするぞ」と方針を決めたのは、「リストを受け取ってから会見が始まるまでの30分間」ではなく「会見が始まった後」だということになります。

では、どのくらい後なのか。

彼は「すぐ」という言葉を使っているので、常識的な読み手なら「最初から」と受け取るところでしょうが、強引に解釈すれば開始5分後でも開始10分後でも「始まってすぐ」と言えないことはありません。

だから極端な話、「1番手と2番手の質問が終わって、3番手の質問者を指名するあたりで方針を決めた」と後付けで説明することも可能な文章になっているのです。

一体なぜ、こんな紛らわしい書き方をしているのか?

考えられることは1つしかありません。

基本戦略としては、「一貫してフェアに指名した」と主張しているムードを漂わせて「完全無罪」を狙いに行く。

でも万が一、「いきなり2人連続で指名候補記者ばかり選ばれるなんて確率論的におかしいでしょ!」というツッコミが殺到し、窮地に追い込まれた場合に備えて、「いえいえ、最初の2人だけはリストに沿って選んだんですよ。リストに関係なく指名したのは3人目からでございます。ほらコメントもそう読めるでしょ」と軌道修正する余地を残しているわけです。


ここでも「更問い禁止宣言」

正直、このコメント、発表方法も含めて実に巧妙だと思います。

もしも、記者たちの面前でこんなコメントを出したら、「この『会見が始まってすぐ』というのは具体的にどの時点ですか?」と問い詰められ、ボロが出てしまう恐れが濃厚です。

その点、松本氏は抜け目ありません。

10月4日にNG記者リストの存在が発覚して以降、丸2日間にわたって全くメディアの取材に応じず、10月6日の夕方になって突然、このコメントをネット上に公開。しかもコメントの末尾には、ご丁寧に「このコメントで、私からの情報発信は最後といたします」と書き添えていました。

いやはや、恐るべき徹底ぶり。

まさにこれは松本氏の「更問い禁止宣言」だと言えるでしょう。


以上のことを踏まえると、「フェアな司会進行をした」という松本氏の主張は極めて信頼性に欠ける、と思わざるをえません。

ただ、結論を出す前にもう1つ検証しておくべき点があります。

それは「指名NG記者」の中で唯一、「一月万冊」の佐藤章氏が、どういうわけか会見の中で松本氏から指名されていたという事実です。次回はその辺りを考えていこうと思います。

つづく

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コロナ禍のなか、45歳で新聞社を早期退職し、念願のアーリーリタイア生活へ。前半生で貯めたお金の運用益で生活費をまかないながら、子育てと読書と節約の日々を送っています。

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