ジャニーズ事務所の記者会見をめぐる「NG記者リスト」の問題が、まるでミステリー小説のような様相を呈しています。
ご存じの通り、このリストの存在はNHKのスクープで発覚したわけですが、ジャニーズ事務所は「ワシは何も知らん。アイツが勝手に作ったんだ」と釈明。
名指しされたPR会社は「え~と…ウチが勝手に作りました」と謝罪したものの、関係者が「本当はジャニーズに頼まれたんだよ…」と週刊誌に爆弾証言。
そして、会見を仕切った司会者は「確かにリストをもらっていたけど、それに従って指名したわけじゃないんだ!」と主張。
当事者たちの取ってつけたような説明に、ジャーナリストたちが「なわけねーだろ!」とツッコミを入れ、メディアの取材合戦がますます過熱しています。
解明すべき謎は多々ありますが、当面、特に重要なのは次の3点でしょう。
① 司会者は本当にリストに関係なく質問者を選んでいたのか?
② ジャニーズ事務所は本当にリストに関わっていないのか?
③ 東山紀之社長と井ノ原快彦氏は本当に何も知らなかったのか?
というわけで今回は、ミステリーファンの1人として、僕もこの謎解きに参戦してみようと思います。
(※毎度のことながら早期リタイアと関係ない内容ですみません。)
〈前提となる事実①〉記者会見の流れ
それではまず、推理の前提となる事実関係を押さえておきましょう。
日刊ゲンダイデジタルなどによると、問題の記者会見は10月2日(月)午後2時から東京都千代田区の超高級ホテル「フォーシーズンズホテル東京大手町」の一室で開催されました。ジャニーズ事務所としては9月7日に続く2度目の会見です。
登壇者はジャニーズ事務所の東山社長(元少年隊メンバー)、イノッチこと井ノ原・ジャニーズアイランド社長(元V6メンバー)、サポート役弁護士2人の計4人。実質的に事務所を取り仕切ってきたジュリー藤島景子前社長や白波瀬傑前副社長は姿を見せませんでした。
この会見の運営実務を担ったのは、ジャニーズ側から委託された外資系PR会社のFTIコンサルティング。
そして司会進行を任されたのは、紅白歌合戦の司会を務めたこともある元NHKアナウンサーの松本和也氏(株式会社マツモトメソッド代表取締役)でした。
以上が主催者側の登場人物です。
一方、この会見に参加した報道陣は約300人。
プレジデントオンラインによると正確には294人で、内訳はムービー(動画カメラマン)が73人、スチール(静止画カメラマン)が54人、ペン記者(質疑応答に参加して原稿を書く記者)が167人だったそうです。
そして重要なのが、主催者側が報道陣へ通告した記者会見のルール。
「会見時間は2時間」「質問は1社1問だけ」「更問い(登壇者の回答に対して記者が再質問すること)は禁止」という、かなり一方的な内容でした。
(※このルールの問題点については前回の記事〈ジャニーズ会見で炙り出された芸能記者の立ち位置〉に詳しく書いたので興味ある方はご参照下さい。)
果たして、この記者会見は大荒れに荒れました。
詳細は民報各局がYouTubeで公開している2時間余りのノーカット動画や、多くの関連記事を見てもらえばいいのですが、そこまでヒマな人はそうそういないと思うので、ごく大雑把に流れを説明しておきます。
質疑応答の開始直後から、最前列で手を上げ続けていた東京新聞の望月衣塑子記者とネットメディア「ArcTimes」の尾形聡彦編集長が、いつまでたっても司会者の松本氏から指名されないため業を煮やし、「指して下さい」などと何度も要望。それでも松本氏の態度が変わらなかったため、指名を待たずに直接、東山社長に質問をぶつけ始めました。
これを松本氏がとがめたことで、尾形氏らが反論。「ちゃんと当てて下さい。フェアじゃない」「いいえ、フェアです」「茶番だと思うんですけど」「全く茶番ではございません」といった押し問答になり、「ルール守れよ」とヤジを飛ばす者も現れて会場は騒然となりました。
こうした中、会見終盤にイノッチが壇上から「生中継で子供も見ています。ルールを守る大人の姿を見せたいと僕は思っていますので、どうか落ち着いて下さい」といった趣旨の演説をぶつと、なんと報道陣から拍手が発生。
こうして完全に主催者ペースのまま、約2時間の会見は幕を下ろしました。
(※このイノッチ演説と報道陣の拍手がはらむ問題点については、同じく前回の記事に詳しく書いています。)
〈前提となる事実②〉会見後の動き
さて、ここからは会見後の動きです。
案の定、会見直後に複数の芸能系メディアが、望月記者らを「ルールを守らない記者」と位置づけ、イノッチの言動を「神対応」などと持ち上げるニュースを配信。SNSには望月記者らを批判する声があふれました。
恐らくこの時点では、少なからぬテレビ・ネット視聴者が、これまで述べてきたような会見運営上の問題点を理解しておらず、強引に質問をぶつけようとする望月記者らの様子を見て「ヒステリックだな」と感じていたのではないかと思われます。
そういう意味では、テレビカメラの前でいかに振舞うべきかを熟知し、巧妙なルールを設定して会見に臨んだジャニーズ側の「作戦勝ち」とも言える結果でした。
ところが、会見から2日過ぎた10月4日(木)、NHKが夜7時のニュースで〈ジャニーズ事務所会見 会場に質問指名の「NGリスト」〉とスクープを放ったことで一気に潮目が変わります。
SNSには瞬く間に「あれほどルールを守れと言っておきながら裏でこんなインチキをしていたのか」という怒りの声が渦巻きました。
窮地に陥ったジャニーズ事務所は同夜、メディア各社へ向けて「あのリストは運営を任せていたPR会社が作ったもので我々は全く知らなかった」という趣旨のコメントを発表します。(※全文はこちら)
ただ、このコメントには1つ重要な事実が記されていました。
会見前々日の9月30日(土)、ジャニーズ事務所とFTI社が打ち合わせをした際、FTI側が「NG」の文字が入った媒体リストを持ってきたので、それを見たイノッチが「これどういう意味ですか? 絶対当てないとダメですよ」と発言。FTI側は「では前半ではなく後半で当てるようにします」と応じたというのです。
このエピソード、恐らくジャニーズ事務所の広報担当者が「うちは潔白だ」ということを強調するためにコメントに加えたんだと思いますが、諸刃の剣でした。
なぜなら、打ち合わせの段階でジャニーズ側もNGリストを見ていたことを白状したようなものだからです。
しかも、イノッチの発言を聞いたFTIの人間が「では、分け隔てなく指名します」と応じたのではなく、「後半で当てます」と応じたというのだから、程度の差こそあれ「平等に扱わない」という方針に落ち着いたことになります。
結果的に、このコメントはグレーな印象を残すことになりました。
(※ジャニーズ事務所が翌日ネット上に公開したコメントでは、この「前半ではなく後半で」のくだりが削除されていました。全文はこちら。)
とはいえ、ジャニーズ事務所が「PR会社が勝手に作った」と説明した以上、取材の矛先は当然そちらへ向かいます。
メディアからの問い合わせが殺到する中、FTIコンサルティングはしばらく沈黙を守っていましたが、翌10月5日(木)の昼過ぎになって、ようやく以下のようなコメントを発表しました。
「限られた会場使用時間の中で会見の円滑な準備運営のために弊社が作成し、運営スタッフ間で共有したもので、ジャニーズ事務所様は一切関与しておりません。実際の会見の進行においては、こうした資料に関わらず、登壇者司会者の判断のもと、幅広い媒体の記者の皆様にご質問いただくこととし、貴重な意見を頂戴したところです」
ここに至って、主催者側の説明の全体像がなんとなく見えてきました。
要するに、「このリストは、会見を円滑に進めるためにFTIが勝手に作ってスタッフで共有していたけど、実際の会見では、司会者らの判断でリストに関係なく幅広い記者に質問してもらった」。つまり「我々は特定の記者を排除してなんかいない」と主張しているわけです。
しかし、この説明には相当無理があります。
わざわざNG記者リストを作って、当日会場まで持ってきて、スタッフが共有していたにもかかわらず、なぜか実際には使わなかった。その理由が全く説明されていません。
そもそも、あの日、「手を挙げてもぜんぜん当ててくれない」と司会者に怒りをぶつけていた記者が実際にいたわけです。
メディアは当然、FTIに次の質問をします。
――――司会をしていた松本氏の手元にNG記者リストはあったんですか?
ところがFTIは、なぜかこの時、その答えを保留しました。
当時の報道をチェックしてみると、例えばテレビ朝日には「ノーコメント」、日本テレビには「調査中」と答えていたことがわかります。
では、渦中の松本氏はどう説明するのか?
実はこの日、というかNHKがスクープを放って以来ずっと、彼は一切の取材に応じず沈黙を続けていました。
その松本氏がようやくネット上にコメントを発表したのは、FTIのコメント発表からさらに丸1日以上が経過した10月6日(金)夕方のこと。
その内容は、一言でいうと「私自身も記者会見が始まる30分ほど前にスタッフからリストを渡されていた。しかし、2日前の打ち合わせで井ノ原副社長の発言を聞いていたので、その意思を尊重し、リストはないものとして進行することにした」というものでした。
そう、FTIと同じく「特定の記者を排除したりはしていない」と主張したのです。
(※コメント全文はこちら)
以上、推理の前提となる事実関係の説明だけでかなり長文になってしまいましたが、これでようやく、ジャニーズ事務所・FTIコンサルティング・松本和也氏と、主催者側3者の「言い分」が出そろったわけです。
それにしても、彼らがリスト作成の経緯や当日の運用を説明するまでに、なぜこれほどの時間がかかったのか?
例によって入念な「打ち合わせ」(というか口裏合わせ)が行われていたのではないのか?
彼らの説明は一体どこまで信用できるのか?
率直に言って疑問は尽きません。
というわけで次回はいよいよ、記者会見当日の動きと照らし合わせながら、彼らの説明の信用性を検証していこうと思います。
(つづく)
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