指名NG記者リスト問題の謎解きに挑むシリーズの第3弾。引き続き、「私はリストに関係なく質問者を指名した」と主張する松本和也・元NHKアナウンサー(株式会社マツモトメソッド代表取締役)の釈明を検証してゆきます。
前回の記事では主に、「指名候補記者リスト」に名を連ねていた人々が、いかに高確率で指名されていたかを見てきました。
そこで今回は「指名NG記者リスト」の面々の指名実績を見てゆくことにします。まず、こちらがNGの6人です。
このうち10月2日の記者会見に出席したのは、松谷創一郎氏を除く5人。
このうち4人(望月・尾形・本間・鈴木の各氏)は、最初から最後まで司会者の松本氏から指名されることはありませんでした。
そして唯一、佐藤章氏だけが指名されました。
というわけで、指名率は20%。これだけみると「なんだ、結構高いじゃん」と思ってしまいそうです。
しかし、当事者たちの話に耳を傾けてみると印象は全く違ってきます。
「目が合ってもスルーされる」
まずは東京新聞の望月記者とArcTimesの尾形編集長。ある意味、今回の会見で最も注目を集めた報道関係者と言っていいでしょう。
2人は質疑応答が始まってから一貫して手を挙げ続けたけれど、全く指名してもらえず、司会の松本氏に「指して下さい」と再三要望。それでも状況が改善されなかったため、途中から指名なしで質問を強行し始めました。
その結果、尾形編集長と松本氏との間で「ちゃんと当てて下さい。フェアじゃない」「いいえ、フェアです」「茶番だと思うんですけど」「いいえ、茶番ではございません」といったバトルが繰り広げられたことは周知のとおりです。
望月記者は後にこう振り返っています。
「司会の松本和也氏が質問者を選別していることは、その場ではっきりわかりました。鈴木エイト氏や尾形聡彦編集長、そして私など、特定の記者は指名されません。たとえ目が合っても」(プレジデントオンラインより)
つまり望月氏と尾形氏は、会見中に松本氏の挙動から「意図的な指名外し」をハッキリ感じ取り、その場で異議を唱えていたわけです。
次にジャーナリストの鈴木エイト氏ですが、TBSの報道番組でこう語っています。
「早い段階で何度も手を挙げていたんですけど、司会の方とも何度も目が合っていたんですけど、なぜかスルーされてしまった」
「(自分の名前がリストにあると聞いて)当日感じた違和感が回収されたというか、そういうことだったのかと腑に落ちました」
彼の場合、その場で抗議したわけではありませんが、やはり前の2人と同じく、会見中から松本氏の挙動を怪しんでいたことがわかります。
しかも、その不審ポイントが同じ。
松本氏が目を合わせたうえでスルーしたというのです。
なぜ、NG記者の佐藤氏が指名された?
そして最も興味深いのが、「指名NG記者」の中でただ1人だけ松本氏に指名された「一月万冊」の佐藤章氏(元朝日新聞記者)の話です。
一月万冊より
佐藤氏はNG記者リスト発覚翌日の10月5日に公開した動画の中で、自分が指名された場面を詳細に振り返っています。詳しくはその動画を見ていただきたいのですが、大雑把にまとめるとこういう話です。
佐藤氏が精一杯目立つように左手をまっすぐ挙げ続けていると、やがて司会の松本氏と目が合った。その瞬間、佐藤氏はしっかり目を合わせたまま、相手に向かってコクリと頷いてみせた。すると松本氏はそれにつられたように佐藤氏を指名した――――というのです。
佐藤氏によると、このアイコンタクトと頷きは、長年の記者経験で会得した「記者会見で指名されるコツ」なんだそうです。今回のケースでは、目があった瞬間にコクリと頷いたことで、司会の松本氏が「こいつは味方だ」と勘違いしたんじゃないか、と佐藤氏は推理しています。
う~ん、さすが百戦錬磨のジャーナリスト。
もしもこの推理通りなら、松本氏は佐藤氏のアイマジックに見事に引っ掛かって心ならずもNG記者を指名してしまった、つまり、この指名はミステイクだったということになります。
「そんなの勝手な想像だ」と反論する人もいるでしょう。
しかし実は、この推理を裏付ける有力な状況証拠が存在するのです。
思わず資料を凝視する司会者の姿
それがこちら。
俳優の松崎悠希氏がSNSに投稿した80秒余りの動画です。
すでにご覧になった方も多いと思いますが、この会見の謎を検証するうえで極めて重要な材料だと思うので、あえて紹介させてもらいます。
恐らくこれ、YouTubeで公開されているジャニーズ会見のノーカット動画から切り抜いて拡大したものだと思いますが、佐藤氏を指名した直後の松本氏の動揺が見事にとらえられているのです。
せっかくだから文章で内容を解説しておきましょう。
まず、松本氏が「前から3列目くらいの、左手を挙げている男性お願いします」と指名し、佐藤氏が「一月万冊の佐藤章と申します」と名乗ります。
すると松本氏は約10秒間にわたって手元の資料(恐らくNG記者リスト)を凝視。その後、視線を上げたり下げたりして質問者と資料を見比べるような動作をします。
そうこうしているうちに、すぐ横から何事かを耳打ちされ、ウンウンと頷きます。(恐らく、運営スタッフが駆け寄って「あいつはNG記者の佐藤章ですよ。わかってますか?」と声をかけたのでしょう。)
その後、松本氏はメガネをずらし、裸眼でもう一度、手元の資料を食い入るように凝視。なおも質問者と資料を見比べるような動作を続けます。
……どうですか?
佐藤章氏が披露した指名時のエピソード、そして、指名直後の松本氏が見せたこの「いかにも」な反応を考え合わせると、松本氏にとってこの指名がミステイクだったことはほぼ間違いないと言っていいでしょう。
ミステイクを誘ったもう一つの原因
さらに推測を付け加えるならば、このミステイクが発生した原因の一つとして、「NG記者リストの佐藤氏の顔写真と、実物の佐藤氏の雰囲気がかなり違っていた」ということが挙げられるんじゃないかと僕は考えています。
みなさん、次の2枚の写真を見比べてみてください。
左が、NG記者リストに使われていた佐藤氏の画像。右が、「一月万冊」で話をしている佐藤氏の画像です。
どうです? 一瞬とまどうくらい雰囲気が違ってませんか?
この雰囲気の違いのせいで、松本氏は注意を払っていたにも関わらず、NG記者の佐藤氏を識別できなかったんじゃないか……。
そう考えながら今一度さっきの動画を見直すと、「おいおいマジか、このリストの顔写真、実物とかなり違ってるじゃねーか…」という松本氏の心の声が聞こえてくるような気がます。
(※ちなみに、左の写真は佐藤氏が自身のXアカウントに登録しているもの。もしFTIコンサルティングのスタッフが、Xアカウントの写真ではなく、「一月万冊」の動画をスクショしてNG記者リストに貼り付けていたら、このミステイクは起こらなかったかもしれない、と僕は勝手に想像しています。)
それから推測をもう1つ。
望月記者も、鈴木エイト氏も、佐藤章氏も、みんなあの記者会見の様子を振り返るときに「松本氏と目が合って……云々」という話をしています。
なぜここまで、松本氏の視線は彼らの意識に強いインパクトを残しているのでしょうか?
僕は恐らく、松本氏が指名の際に「こいつにしようか」と思った記者の顔をまじまじと凝視していたからではないかと思います。もちろん、リストの顔写真と脳内で照合するためです。
これもまた、彼がリストに沿った司会進行をしていたことをうかがわせる材料の1つではないかという気がしています。
結論:指名はリストに沿って行われていた
さて、長くなってしまったので、このあたりでまとめます。
・今回の記事で確認した「指名NG記者」たちの指名率の低さ(ミステイクを除けば0%)。
・佐藤氏を指名した直後に松本氏が見せた不審な挙動。
・そして、前回の記事で確認した「指名候補記者」たちの指名率の高さ。
・松本氏が発表したコメントの紛らわしい書きぶり。
・メディアの取材を頑なに拒む松本氏の態度。
………
これらの材料は全て1つの方向を指し示しています。
それはもちろん、司会者は明らかにリストに沿って質問者を選別していたということ。これが僕の結論です。
(おしまい)
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いやあ、すみません。
これまで「読みやすい文章」を心がけてこのブログを続けてきたのに、今回はダラダラ長くて理屈っぽい文章を書いてしまったと反省しています。
しかも、連載形式で3本も記事を投稿したのに、いまだに最初にあげた3つの謎のうち①の謎しか扱ってないという手際の悪さ。そして、その結論も世間の見立て通りという意外性のなさ。ミステリーファンを自認しながら、まったくもってお恥ずかしい限りです。
本当はこのまま②③の謎にも挑戦するつもりだったけど、このまま迷走していきそうな予感がするので、このシリーズはここでいったん打ち止めにします。②③の謎については、いまなおメディアから続報が次々飛び出している状態なので、しばらく様子を見守りつつ、また面白い展開があったら何か書こうかと思っています。
というわけで、ご愛読ありがとうございました。次回から普段のブログに戻ります。
〈さらに補足〉
ジャニーズ事務所は10月10日(火)夜、〈NGリストの外部流出事案に関する事実調査について〉と題した長大なコメントを発表。この中で「我々は指名候補記者も、指名NG記者も、いずれも約5割を指名している」という驚くような主張を展開しています。
一体どういう計算をしたらそうなるの?と不思議に思って読み進めてみたところ、どうやら、望月記者と尾形編集長が司会者の指名をあきらめてマイクなしでぶつけた質問に、東山社長がやむを得ず応答したケースを「指名」だとカウントしているらしいことがわかりました。
僕としては、あまりにも自分たちに都合よく事実をねじ曲げたトンデモ論法だと判断せざるを得ず、今回の記事ではその主張をスルーした次第です。
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