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小宝島の魚突き旅行から帰って半月余り。都会のうだるような暑さの中、「ああ、また海行きたい」と海ロスな日々を送っていたところ、ネットでこんなマンガを見つけました。
その名も「銛ガール」(全2巻)。
なんと、魚突きを描いた作品だそうです。
魚突きマンガと言えば、狩猟マンガの名作「山賊ダイアリー」の続編である「山賊ダイアリーSS 真夏の魚突き編」というのがありましたが、あれは2017年に第1巻が発売されただけで後がプッツリ途絶え、そのまま現在に至っています。
僕が知る限り、2019年に出版されたこの「銛ガール」は、日本で2例目の魚突きマンガ。これは貴重だということでさっそく注文。今回はその読書レビューです。
美しく描きこまれた魚と海中風景
このマンガ、一言でいうと、「超マニアックな男の趣味」というイメージが強い魚突きを女子高生にやらせてみました、というコンセプトの作品です。
魚突きをテーマにしているだけあって、とにかく魚の絵がうまい。イシダイ、クロダイ、キュウセン、ブダイ、カサゴ、カワハギといった多種多様な魚をリアルかつおいしそうに描いています。
それから、作中の海中風景もすばらしい。サンゴ、海藻、海底の岩。そして、海面から差し込んでそれらを照らし出す太陽光線が、それはそれは美しく丁寧に描きこまれています。
僕なんかは、この海中風景と、作中にちりばめられた魚突きのウンチクを読んでいるだけで十分満足できてしまいました。
ただし、ストーリーはいたって単純です。
主人公は、どこかの海辺の街に住む岩國夏子という16歳の魚突き大好き少女。当初は父親と2人だけで海に潜っていたけど、そのうち海辺で出会った野外料理好きのキャンプ少女・秋子や、同じく魚突き愛好家のアメリカ娘・ミーオが仲間に加わって、魚突きがさらに楽しくなっちゃったみたいな話です。
複雑な人間ドラマとか、予想外の展開みたいなのは基本ありません。このあたりが単行本2巻で連載が終了してしまった原因でしょうか……。
先ほど挙げた「山賊ダイアリーSS」といい、この「銛ガール」といい、魚突きマンガはどうも連載が長続きしない宿命のようです。
というわけで、万人向けとは言い難い作品かもしれませんが、僕みたいに「3度の飯より魚突きが好き」という人、これから魚突きに挑戦してみようかなと考えている人なら一読の価値はあると思います。
魚突きの本質は「殺して食べる」
それから最後にもう1点。
実は、僕がこの作品を読んで一番いいと思ったのは、銛の刃先が魚の目玉を貫いたり、ナイフで魚の喉を掻っ切って止めを刺したりといった一見残虐に見えるシーンも包み隠さず描写しているところ。「生き物を殺して食べる」という、この趣味の本質をきっちり伝えようとする作者の姿勢がにじみ出ています。
それは登場人物たちのセリフやエピソードにも表れています。
例えば、勝気な性格のミーオは、なぜかクラスの友達には魚突きをしていることを隠しています。もともと祖父に教わった魚突きだけど、日本の中学校でそのことをクラスメートに話したら「残酷だ」と非難され、以来人には話せなくなったとのこと。
その話を聞いた夏子は「生き物を殺す趣味だし、私も他人には言いづらい」と共感します。
そこで「じゃあ、夏子はどーして魚突き続けてるの?」と問われた主人公の答えがふるっている。
「『獲ってる実感』なんだよな… 自然の中から直接… この現代に… そんなことができるなんて魚突きだけだし…」
そう言って彼女は、食べ終えた魚に手を合わせて感謝します。
そう、僕が数ある趣味の中でも「魚突きが一番面白い」と感じる理由が、まさにここです。
自ら海に潜り、できるだけ原始的な方法で獲物を狩って食べる。一応、道具に頼ってはいるけれど、現代人としては精いっぱい背伸びして、自分の中にもまだまだ狩猟採集民の血が流れていることを確認する――――。これこそが魚突きの醍醐味です。
そういう意味で「ああ、この作者は魚突きのことを本当によく知ってるんだな」と納得した主人公のセリフでした。
みなさんも是非、このマンガで魚突きの世界をのぞいてみてはいかがでしょうか。