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今回は最近読んで面白かった本の紹介です。
取りあげるのはプチ鹿島さんの「ヤラセと情熱 水曜スペシャル『川口浩探検隊』の真実」(双葉社、2022年)。
このタイトルだけで大体どんな本かわかるでしょう。
そう、1977年~1985年にテレビ朝日で放送された昭和の伝説的ヤラセ番組「川口浩探検隊」シリーズの関係者に次々とインタビューを敢行し、「世紀の発見」の裏側を暴露してゆく本です。
もちろん、それだけじゃありません。
筆者は彼らの証言を通じて、テレビとは何か、ドキュメンタリーとバラエティーの違いとは何か、1985年以前と以後の視聴者意識の間にどんな断層があるのか――――といった社会性のあるテーマを掘り下げていきます。
でも、正直、そういう考察は僕にとって二の次三の次。
とにかく、ネタバラシが見たい!
少年時代に心躍らせた「角をはやした大蛇ナーク」や「2つの頭を持つ怪蛇ゴーグ」の正体を知りたい‼
そんな動機でページをめくった僕の期待に、この本はしっかり応えてくれました。
あのころ小学校の教室で、あるいは近所の公園で、ナークやゴーグが実在するかどうか友達と激論を交わした経験がある人なら、絶対に読む価値があると思います。
ナーク、ゴーグ、バラナーゴ、ガーギラス…
例えば、1980年7月に放送された〈巨大怪蛇ナーク‼ タイ秘境底なし沼に恐怖の魔神は実在した‼〉の回。
当時、小学1年生だった僕は、番組のクライマックスでテレビ画面に映し出された「巨大な蛇がジグザグに体をくねらせながら湖面を泳いでいる映像」を見て、「すごい、撮影に成功してるよ!」と興奮したことを今でもハッキリ覚えています。
恐らくこれが、川口浩探検隊に関する僕の最も古い記憶でしょう。
普通なら、ここで大人が「こんなのインチキに決まってるだろ」とたしなめるところですが、うちの場合は親父も「ほう、こりゃすごいな」と冗談とも本気ともつかない様子で感心していました。唯一、母親だけが「また、こんなバカみたいな番組見て…」とあきれ顔だったと記憶しています。
で、この衝撃的なテレビ体験から40年余りの歳月を経て、僕はナークの驚くべき正体(ある意味、想像通りの正体)を知ってしまいました。
湖面を泳いでいたあの大蛇はなんと、川口探検隊御用達のタイのヘビ業者が事前に仕込んでいた大物だったそうです。本書にはヘビの種類までは書かれていませんでしたが、恐らく東南アジアに生息するアミメニシキヘビかビルマニシキヘビの大型個体だったのでしょう。
本書によると、その大物を10人くらいで細長い箱の中に押さえ込んで固定し、サメでも釣りあげられるような極太のテグスをヘビの体に縫い付け、ヘビが逃げないようにテグスを湖岸の樹木に縛りつけて泳ぐ姿を撮影したとのこと。
いやもう、どこからツッコんでいいのかわからないくらいのメチャクチャな真相。放送倫理も動物愛護もあったもんじゃありません。
こんな調子で、水曜スペシャルを彩ってきた未確認生物や原始猿人――――ゴーグ、バーゴン、バラナーゴ、ガーギラス etc ――――の正体が暴かれ、僕の中ですっかり忘れかけていた少年時代の謎が一つ、また一つと解決していきます。
水曜スペシャルを疑い始める年頃
とはいえ時代が下ってくると、僕もそれなりに成長していたようで、「ああ、これは当時からインチキだとわかってたなあ」というケースも出てきます。
例えば、1985年7月に放送された〈ワニか怪魚か⁉ 原始恐竜魚“ガーギラス”をメキシコ南部ユカタン半島に追え‼〉の回。元制作スタッフの1人は本書のインタビューにこんな風に答えています。
ガーギラスは中南米にいるジャイアントトロピカルガーという熱帯魚です。大きいのは2メートルくらいにはなる。これを“口がワニで胴体が魚”と煽るんです。当時の日本では誰も知らないですから。
いやいや、ちょっと待ってください。僕はちゃんと知ってましたよ。
そのころはまだ、日本でガーを飼育している熱帯魚マニアはいなかったのかもしれませんが、少なくとも魚類図鑑には普通にガーが掲載されていました。
だから、図鑑大好き少年だった僕(当時小学6年生)は「なにが“ワニか怪魚か”だよ、魚に決まってんだろ。勝手にガーギラスなんて名前をつけやがって」とツッコミを入れながら、それでも熱心に放送を見ていました。
(※ガ—の仲間にはいろいろ種類があり、元スタッフが証言した「ジャイアントトロピカルガー」というのは正確には「トロピカルジャイアントガー」という名前です。ちなみに、僕は当時、撮影に使われた個体は「アリゲーターガー」ではないかとにらんでいました。)
このことからわかるように、小学1年当時の僕と小学6年当時の僕とでは、あの番組の受け取り方が全然違います。
これは先程も述べた通り、僕の成長のタマモノだと思いますが、あの歌の影響も忘れてはいけないでしょう。
そう、嘉門達夫のパロディソング「ゆけ!ゆけ!川口浩‼」。
僕が小学5年生の時に世に出たこの名曲は、子ども界における川口浩探検隊の権威を劇的に変化させました。本書には、その嘉門さんも登場し、歌を発表する前に対面した川口浩さんとのやりとりを語ってくれています。
それがまた面白い。「川口隊長って憎めない人だなあ」と感じてしまいます。
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振り返ってみれば少年時代が終わった後も、僕の人生には時々、川口浩探検隊を思い出すような出来事が巡ってきました。
思えば僕は、少年時代に見た水曜スペシャルで探検隊の活躍に胸躍らせ、そのあと嘉門達夫の歌に啓蒙されて探検隊を「笑い」として鑑賞することを学び、今この本によって探検隊の本当の姿を知る喜びを味わうことができました。
人生で3度も僕を楽しませてくれた川口浩探検隊、ありがとう。そして永遠なれ!
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