これまでの人生で訪れた島々の中から、とっておきの「忘れがたい島」を紹介するシリーズの第3弾。最終回となる今回は九州・沖縄編です。
小宝島(鹿児島県)
トップバッターは「日本最後の秘境」と呼ばれるトカラ列島の小宝島(こだからじま)。以前このブログで紹介させてもらった通り、僕が2023年の夏に一人旅で訪れた島です。(くわしくはこちらの連載をご覧下さい)
誤解を恐れずに言えば、この島の魅力はとにかく不便なところ。
そして、観光開発されていないところ。
「今の日本にここまで突き抜けた僻地があるのか!?」と驚くような島でした。世の中には観光客ウケを狙って「秘境」を名乗っている土地がたくさんありますが、そういうのとは全く次元が違うんです。
まず、この島には「店」と名のつくものが1軒もない。飲食店はもちろん、食料品店も日用品店も何にもありません。旅人が利用できる施設と言えば民宿と郵便局くらいです。
そして、九州本土からめちゃくちゃ遠い。鹿児島港から島へ渡るフェリーは月曜と金曜しか出港しておらず、片道11~12時間くらいかかります(※奄美大島からの復路を利用すると片道4時間くらい)。
もちろん空の便なんてありません。そもそも1平方kmにも満たない小さな島なので、緊急用のヘリポートがあるだけです。
東京からこの島へ行こうと思ったらトータルで何時間かかるのか? 旅行マニアの方はぜひ試算してみて下さい。
しかし!
そんな不便な島だからこそ、僕みたいな離島マニアが泣いて喜ぶような手つかずの自然が残されているわけです。
例えばこの海岸。コンクリート製の堤防や消波ブロックといった人工物がなく、海と山の間には、隆起サンゴのゴツゴツした岩場がひたすら広がっています。砂浜すらほとんどありません。
そして、この真っ青な海。
漁師や釣り人すらほとんどいないから、魚もうじゃうじゃ泳いでいます。こちらは僕がヤスで仕留めたイスズミです。
そして、この島唯一の観光名所とも言うべきポイントがこちら。
海岸に湧き出している湯泊温泉(ゆどまりおんせん)です。このシリーズの関東・近畿編で紹介した式根島の地鉈温泉と同じく、入浴無料・24時間利用可の露天風呂。滞在中、泳ぎつかれた体を毎日癒してくれました。
ちなみに、温泉を海側から眺めるとこんな感じ。浴槽の囲いと岩を削った階段のほかには人工物が何も目に入りません。
とまあ、この島の魅力を挙げていくとキリがないのでこの辺にしておきます。さらに詳しく知りたい方は、ぜひ
連載を読んで下さい。島の人々の暮らしぶりも紹介しています。
奄美大島(鹿児島県)
お次は同じく2023年の夏、小宝島からの帰りに立ち寄った奄美大島です。こちらは観光地としてメジャーなところなので、今さら僕ごときが紹介するのもおこがましいのですが、やはり忘れがたい島なので取りあげることにします。
僕が滞在したのは北部の奄美市笠利町にある自炊宿。この辺りの海岸はこんなふうにサンゴのリーフに縁どられています。
で、潮が引いたらどこまでも歩いて行けます。
あちこちにカニ、シャコ、ナマコなどの生き物が蠢いているので、いくら散歩しても飽きることがありません。
そんな奄美の海岸の中でも特に気に入って、滞在中に何度も通ったのが、こちらの土盛海岸(どもりかいがん)でした。
ここはリーフが途切れ、スコーンと深くなっている場所があって魚が多い。時にはウミガメとたわむれたり、自分より大きなロウニンアジに遭遇してぶったまげたりすることもありました。
宿泊先の自炊宿から歩いて行ける距離だったので、僕は毎日のタンパク源をほぼここで調達していました。
どうですか、この豪華な食卓。これが自炊宿の醍醐味です。
ただし、この土盛海岸、しばしば離岸流が発生するそうです。現地にはこんな看板がありましたので、遊びに行く方は気をつけて下さい。
黒島(沖縄県)
お次は日本列島の西の果て、八重山諸島の中の小さな島。今から20年ほど前、結婚前の妻と一緒に1度だけ訪れたサンゴ礁の美しい島です。
この黒島は、島を取り巻くサンゴの環礁の内側に、波穏やかなラグーン(礁湖)が広がっているのが特徴。環礁のおかげで外洋に流される心配もなく、思う存分シュノーケリングを楽しむことができるのです。
ご覧のようにラグーンの中には結構な大物もいっぱい泳いでいます。穏やかな海で安心して生物観察を楽しみたいという方には、特におすすめの島です。
なお、この島の主産業は畜産。「人より牛の方が多い」という評判の通り、島内を歩いていると至る所で牛たちに出会いました。今振り返っても、これ以上のどかな場所は他にないだろうと思うような南の楽園でした。
さあ、この島紹介シリーズもいよいよ最後の1島になりました。オオトリにはとっておきの「ミステリアスな島」をご用意しました。
それがこの新城島(あらぐすくじま、別名パナリ島)。
さきほど紹介した黒島のすぐ近くにある島で、上地島・下地島の2島で構成されています。一応、有人島ではあるのですが、居住者が極端に少なく(恐らく数人)、島へ渡る定期船は運航されていません。
では、この島の何がミステリアスなのか?
それを説明するにあたって、まず僕自身の奇妙な体験をご紹介します。
それは約20年前、僕と妻がさきほどの黒島に滞在していたときのこと。僕ら2人はある日、島内の民宿が主催する日帰りのシュノーケリングツアーに参加しました。その行き先が新城島でした。
十数人の参加者を乗せて黒島を出発したエンジンボートは、すぐに新城島に到着しました。そこは見るからに多くの熱帯魚が泳いでいそうなコバルトブルーの海と、亜熱帯の森が広がる楽園のような島でした。
ところが、島の桟橋にボートが接岸し、いざ上陸というタイミングで、ガイドの男性から不可解な注意事項を聞かされたのです。
「島の周囲のサンゴ礁は自由に泳いでもらっていいですが、島内は桟橋付近の砂浜以外、立ち入らないでください。万が一、島民の方に出会っても、あまり話しかけたりしないでくださいね」
え、なんで?
僕たちのそんな疑問を察したように、ガイドは理由を簡単に説明してくれました。なんでも、この島には信仰上の聖地があって、部外者の立ち入りが忌み嫌われているというのです。
確かに、八重山の島々の観光案内書などを読んでいると、「御嶽(うたき)」と呼ばれる神社のような場所があちこちにあって、「立入禁止」の注意書きが添えられているのをよく見かけます。
しかし、それにしても島全体が立入禁止なんて大袈裟だなあ……と、さらなる疑問を覚えたのですが、そのときの僕は早くシュノーケリングがしたくてウズウズしていたので、それ以上深く考えることはありませんでした。
結局、僕たちは新城島に2~3時間ほど滞在しましたが、その間、サンゴ礁を泳ぎまわることにすっかり夢中になっていたので、注意事項を破って島の奥に立ち入るようなことはありませんでした。
ただ、休憩時間に桟橋付近を少しだけ散策しました。そのとき撮影した記念写真がこちらです。
以上、奇妙な体験といってもたったこれだけの話なんですが、それから2年後、僕はたまたまある本を読んでいて、びっくり仰天しました。
そこには、あのとき新城島で僕が抱いた疑問の答えが書かれていたんです。
ちなみに、その本というのはこちらです。
まあ、詳細は省きますが、要するに本書によると、新城島には古くから「アカマタ」「クロマタ」という謎めいた仮面神が登場する年に一度の〈秘祭〉が伝わっており、島出身者とその縁者以外の者には極力見せない、そして、絶対に撮影させてはいけないという決まりになっている。これまで、その噂を聞きつけた民俗学者やテレビ局関係者、そしてマニアックな観光客などが祭りを一目を見ようと島を訪れてきたが、その中の一部の人々が禁を破ろうとしてトラブルに発展。過去には暴力事件も発生している――――という話でした。
さすがに「ホントかよ!?」と思った僕は、ほかにも幾つかの文献にあたってみたのですが、その結果、どうやらこの島に門外不出の祭りが存在し、過去に観光客との間でトラブルが起きているのは事実だということがわかりました。
それにしても、あの太陽さんさんの美しい島に、そんなアンタッチャブルな歴史が秘められていたなんて……
そして、その禁断の島に、偶然にもこの僕が上陸していたなんて……
さきほどの記念写真を見返すたび、僕は今でも20年前の奇妙な体験を思い出し、しばし感慨にふけってしまいます。
なお、新城島の秘祭については現在、インターネット上に様々な情報が出回っており、多くの人の知るところとなっています。なかには、かなり尾ひれの付いたオカルティックな話もあり、都市伝説の様相を呈しているといっても過言ではありません。
ちなみに、芥川賞作家で元東京都知事の故・石原慎太郎氏は1980年代、この島をモデルに「秘祭」という小説を書いています。
小説の中では、祭りをめぐる島民と都会人のトラブルが生々しく描かれていて、僕も興味深く読んだのですが、正直、僻地に住む人々への偏見を助長するようなストーリー展開になっていて、「いくらフィクションとはいえ、発表当時は地元で物議をかもしたんじゃないだろうか」と感じました。
なので、心の底からオススメできる小説だとはとても言えませんが、この島の祭りに興味がある人にとってはなかなか面白い作品だと思います。
◇ ◇ ◇
以上、僕がこれまでの人生で訪れた「忘れがたい島々」の紹介でした。行ってみたいと思う島が一つでもありましたでしょうか?
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