(この写真はツマジロモンガラ2尾分の刺身です)
お次もカワハギの仲間、アミメウマヅラハギ。
こちらは皮の剥ぎやすさも、味の良さも、本家カワハギに負けない優秀な魚でした。調理の手間を考えると、前出のツマジロモンガラよりずっとありがたい存在なんですが、残念ながらツマジロほど多くいません。
お次はダツ。この島にたくさんいます。
サヨリの仲間ですが、サヨリよりも大型で鋭い牙を持っています。体が細く狙いにくいのですが、水面付近を泳いでいるところへそっと近づいてヤスを撃ち込めば、大体4~5回に1回くらいの割合で命中します。刺身にするとサヨリそっくりの上品な味でした。
お次はアカエソ。海底に潜んで大きながま口で小魚を丸吞みする獰猛なハンターですが、ジッとしているぶん狙いやすい相手です。
ちなみに、僕が仕留めたアカエソの口の中には寄生生物ウオノエが居候していました。一緒に煮付けて食べてやろうとしましたが、そのあまりのグロさに尻込みして、口に運ぶ直前で断念。まるで「風の谷のナウシカ」に登場する王蟲みたいな姿でした。こんなのが自分の口の中に住んでいたらと思うとゾッとします。
なお、アカエソ自体は煮付けにすると身が柔らかくて美味しかったです。
最大の獲物、エイを突く
そして、この1週間の最大の獲物がこちら、冒頭にも写真を載せたエイ(アカエイ?)です。
こいつを仕留めたのは、来島7日目の8月5日。ちょうどこの日、僕が泊まっている宿のオーナーや同宿者ら5人で夕食会をする約束になっていたので、みんなで食べられる大物を探していたところでした。
この日の昼前、僕が岩場を泳ぎながら獲物を物色していると、少し離れた砂底でヒラヒラと動くものが目に入りました。それがこいつだったのです。いつもなら「こんなに大きいのは1人じゃ食べきれない」と無駄な殺生を避けるところですが、今回は別。まさに夕食会のメインディッシュ候補です。
ただし、このときエイがいた砂底は水深が5~6mくらいありました。上級者なら全然問題にならない深さですが、僕にとっては結構しんどいレベル。とりあえず、エイの真上の水面に移動して耳抜きをしながら相手を観察します。
(※耳抜きというのは、耳に強い水圧がかかって鼓膜が痛むのを防ぐため、あらかじめ鼓膜の内側の気圧を高めておく作業です。具体的には、鼻をつまんだ状態で口から吸いこんだ息を鼻腔から耳へ送り込んだりします。)
エイは砂の中の貝でも探しているのか、その場から移動せず、ヒレだけ動かして砂を巻き上げるようなしぐさを続けています。
よし、これは勝負するしかない。
覚悟を決めてヤスのゴムを引き絞り、垂直潜りの体勢へ。僕はダイバーが使うようなフィン(足ヒレ)を着用せず、いつもギョサン(漁業者用サンダル)を履いたまま泳いでいるので、ヤスを構えたまま平泳ぎの要領で真下へ進みます。
「逃げるなよ、逃げるなよ、そこにいろよ~」と念じ続けた効果か、エイは動きません。至近距離まで近づいたところで、エイの眉間を狙ってヤスを発射しました。
その瞬間、エイが身をかわそうと動いたのか、それとも僕のコントロールが悪かったのか、原因はよくわかりませんが、ヤスの刃先は狙っていた眉間を外れ、エイの体の中ほどに刺さりました。
一瞬、「まずいかも」という思いがよぎります。
これじゃエイは即死しない。物凄い力で暴走するんじゃないか。そうなったら僕は引っ張り合いに勝てるのか。もしかしたら深みに引き込まれ、息がもたなくなってヤスを放す羽目になってしまうんじゃ……
とっさに浮かんだそんな不安を打ち消すために、僕はヤスを強く握ったまま海面へ向かって必死で泳ぎました。
幸いなことに、エイの抵抗する力は予想していたほどは強くありません。真夏の太陽が照りつける水面がみるみる近づいてきて、僕は海上に頭を出すことができました。
大きく息を吸い込むと、すぐに視線を水中に戻します。ヤスに体を貫かれたエイはヒレをばたつかせていますが、刃先が外れそうな感じはありません。ここでようやく腹の底から喜びが湧きあがってきました。
こちらがエイを陸に引き揚げた直後の様子です。
なお、このエイは大きすぎてそのままの状態ではクーラーボックスに入れることができなかったので、その場でナイフで解体して宿に持ち帰りました。このためエイのサイズは測れていません。
余談ですが、エイの尻尾には恐ろしい毒針があります。もしも読者のみなさんがエイを捕獲したときは、くれぐれも刺されないよう気をつけて下さい。僕も今回、捕獲後速やかに尻尾を切り落として毒針を撤去しました。
せっかくなので毒針の写真も載せておきましょう。縁にギザギザの返しがついているので、刺さったら容易に抜けません。なんとも恐ろしい自然の造形物です。
捕獲より消耗したエイの調理
初めて体験するエイの調理はめちゃくちゃ大変でした。軟骨魚類なので骨は柔らかいのですが、とにかくヌメリが強くてなかなか皮を剥がせない。
結局2時間近く悪戦苦闘しながら、刺身と煮付けと干物用の短冊を作ったんですが、もう寝落ちしたくなるくらい疲労困憊して、写真を撮るのをすっかり忘れてしまいました。
というわけで、味だけ報告します。
刺身は正直イマイチでした。良く言えばクセのない淡白な身なんですが、悪く言えば水っぽくて味がない。恐らくエイの刺身を美味しく食べるには、下処理などのコツがあるのでしょう。まあ、それでも夕食会では、みんな珍しがって結構食べてくれたので良かったです。
煮付けは美味しかったです。とはいえ、あまりに大量に作ったので5人でも食べきれず、僕が翌日も食べ続けることになりました。
そして、僕が最も期待しているエイ料理が、現在製造中の干物です。切り分けたヒレなどを冷蔵庫で一晩醤油に浸けこんでから天日干しにしてみました。
これは干した直後の写真ですが、どうですか、このメノウのような美しい色彩。このぶんならきっと素晴らしい干物ができあがると信じています。
とまあ、以上が最初の1週間を終えての中間報告です。天候にも恵まれ、快調なスタートを切ることができたと言っていいでしょう。
不思議なもので、毎日これだけ魚突きばかりしていると、夜、布団に入って目を閉じてからも、海の中を泳ぎながら岩場に潜む魚を探し続けているような感覚になります。去年、小宝島に滞在して魚突きをしていたときもずっとそんな感じでした。
ただ、7月30日にこの島に来てから7日間連続で休みなく泳ぎ続けてきたもんだから、正直、すでにかなりの体力を消耗してしまいました。8日目となる今日は、思い切って休養日と位置付け、宿でゴロゴロしながらこの記事を書いています。
「ひたすら魚を獲って食べるだけの生活を1カ月続けたら飽きるのか」を見極めるのが今回の旅のテーマですが、あまり無理を重ねると、心の問題以前に体が限界を迎えてしまいかねません。
僕ももうすぐ50歳。さすがに若いころのような回復力は失われているので、このさきは休養日を多めにはさみながらプチ島暮らしを楽しんでいこうと思います。
エイの干物という保存食も確保できたことだし。
〈お知らせ〉
1カ月余りにわたった僕のサバイバル生活をまとめた総集編ムービーをYouTubeで公開しています。ヤスで魚を仕留める様子、その魚を調理する様子、そしてこの島の美しい自然を10分間の動画にギュッと凝縮していますので、ぜひご視聴下さい。
(→南の島自給自足ツアー総集編)