【南の島30連泊日誌③】自給自足を支えた海の獲物たち

2024/09/03

旅・アウトドア

僕の南の島旅行は8月31日、当初の予定より2日遅れて完結しました。今、この記事を本州の自宅に戻って書いています。

南の島レポートの第3弾となる今回は、1カ月余りにわたったプチ自給自足生活の後半戦(3週目~4週目)でお世話になった食材の数々を紹介することにします。

いずれもヤスを使った魚突きで仕留めた獲物たちです。




美味なのに市場に出ない魚たち

まずは岩礁帯の魚から。

一番手はニザダイです。これまで南紀や徳島の海でもよく見かけた、僕にとっては比較的なじみ深い魚です。

この魚、一般的には「磯臭い」「不味い」と評判が悪く、市場にもあまり流通していないのですが、僕はこれまでの経験から「綺麗な海で獲れたニザダイを正しく処理して食べたら美味しい」ということを知っているので、迷わず狙いました。

ニザダイの磯臭さの原因は内臓です。鮮度が落ちると、この臭いが身に移って「不味い」と感じてしまうわけです。なので、僕はニザダイを突いたらまずナイフで腹を割いて内臓を全部取り除き、空っぽになった腹の中を海水で綺麗に洗い流してから持ち帰ることにしています。

今回もそうやって刺身にしたら期待通りの美味しさ。おすそ分けした自炊宿の仲間たちからも「これうまい」と好評でした。

もしこれが通常の流通ルートだと、漁師が獲って、港で水揚げして、都市部へ輸送して、卸売市場でセリにかけて、ようやく店頭に並ぶ――――という手順をたどるため、僕たち消費者が鮮度の良いニザダイを手に入れることはほぼ不可能です。

それに、現金収入を得るための漁業であれば、高級魚でもないニザダイの腹をいちいち割いて内臓を取り除くなどという作業はコスパが悪すぎてやってられないでしょう。

結果、ニザダイみたいな魚には「不味い」「売り物にならない」というレッテルが貼られ、漁師の網にかかってもそのまま海に捨てられるなんてことが起こるわけです。

でも、自分で獲って食べる自給自足生活者にとっては、流通とかコスパとか関係ないから、こういう魚も全てご馳走。水産資源の有効利用にもつながります。

話が脱線してしまいますが、同じようなことは連載の第1回で紹介したツマジロモンガラのような「極端に捌きにくい魚」についても言えるんじゃないかと思います。

この島の海にはカワハギの仲間であるツマジロモンガラがめちゃくちゃたくさん泳いでいるのですが、地元の人もあまり獲ったり食べたりしていないようでした。

その理由は恐らく、この魚の鱗と皮が鎧のように硬くて容易に剥がせないことでしょう。僕自身、この魚の皮を剥ごうと悪戦苦闘しているうちに何度も指先を怪我してしまったくらいです。

でも、味自体は何の問題もない。むしろカワハギの仲間なので肝なんかは絶品です。

なので、なかなか売り物にはなりにくいけど、「苦労してでも自分で獲って食べたい」と思う人にとっては「美味しい魚が誰からも相手にされず、うじゃうじゃ繁殖している」という理想的な環境なわけです。こういうところに、自給自足生活者のアドバンテージがあると言っていいでしょう。


では、話を「後半戦で仕留めた獲物」に戻します。

次はヒレグロコショウダイ。

ネット情報によると、暖かい海の岩礁帯やサンゴ礁帯に生息し、沖縄では美味しい魚として知られているそうですが、僕は今回初めて捕獲しました。最初は何の魚かわからなかったのでSNSで情報を求め、魚に詳しい方から教えてもらいました。

評判通り美味しく、しかも捌きやすい魚でした。


次はアオリイカ。ようやくメジャーな食材の登場です。


この島の海で泳いでいると、いかにも美味しそうなアオリイカが編隊を組んで泳いでいるのを時々見かけます。ただ、彼らは人間を見たらすぐ逃げていくので、なかなか突くチャンスはありません。

ところが1度だけ、警戒心の薄い個体がテトラポッドの周囲をフワフワ遊泳している場面に出くわしたので、これ幸いとばかりに仕留めました。このとき僕の肩に力が入り過ぎていたのか、突いた衝撃でイカの胴体と脚が水中分解してしまって写真のような状態になりました。

そのイカを捌いて、他の魚と一緒に刺身の三種盛りにしたのがこちら。

ちなみに上段はアミメウマヅラハギ、下段はツマジロモンガラの刺身。もちろん、どれも美味しかったです。


巨大魚GTとの遭遇

余談ですが、連日海に潜って獲物を探していた僕は、この他にもいろんな魚に遭遇しました。なかでも最も強く印象に残っているのがこちら。

世界の釣り人が憧れるGT(Giant Trevally)、ことロウニンアジです。

これを撮影したのは8月21日。この日は前日調達した魚のストックがまだあったので、魚突きは控え、防水カメラだけを持ってシュノーケリングを楽しんでいました。

そしたら、深さ5mくらいの岩礁帯でこのバケモノを目撃したのです。

彼は大勢の小さな回遊魚を引き連れ、海底付近をゆっくり泳いでいました。僕は海面から一目見て、その尋常ならざる大きさに度肝を抜かれました。

恐らく体長は1.5m以上。体重は僕よりずっと重いことでしょう。

興奮した僕は慌ててカメラを構え、録画を開始しました。しかし、この日は少し海が荒れていたこともあって透明度がいまいち。僕とGTとの距離も6~7mくらい離れていたので、なかなか鮮明な映像が撮れません。そのうち彼は遠くへ泳ぎ去り、姿を見失ってしまいました。

ああ、残念。でも、今日はとんでもないヤツに出会ったな……

そんな感慨にふけりながら、僕は録画を終了し、岸へ泳ぎ帰ろうとしました。その時、ふいに前方の海底付近にさきほどのGTが再び姿を現したのです。しかも驚いたことに、やつはゆっくり浮上しながらこちらにどんどん近づいてきます。

その瞬間、「チャンスだ」という思いと同時に「怖い」という感情が湧きあがりました。

もちろん、GTが人間を襲うなんて話は聞いたことがありません。

でも、理屈じゃないんです。人間って水の中で自分より大きな魚に接近されたら、もうそれだけで本能的な恐怖を覚えるものなんです。

そのとき僕が感じた怖さはまさにそれでした。

でも、「絶好の撮影チャンスだ」という気持ちがそれを上回りました。ネックレスのように首から垂らしていた防水カメラを急いで構え、録画ボタンを押します。

ギリギリのタイミングでした。

録画が始まった時、彼はすでに僕の2m先くらいのところまで迫っていました。そして、直後に体を反転させ、レンズの1mくらい先を横切って、そのままゆうゆうと泳ぎ去っていきました。

結果的に僕は、ロウニンアジを正面から見た姿、真横から見た姿、後ろ姿をすべて至近距離で撮影するという幸運に恵まれました。このときの動画はYouTubeに公開していますので、興味ある方はご覧下さい。

(→巨大なGTに遭遇

いま振り返っても、あのロウニンアジがなぜあそこまで僕に接近してきたのか不思議で仕方ありません。海面に何かよくわからないものが浮かんでいるのを見て、「もしかして食べられるものかな」と興味を持ったのでしょうか?

だとしたら、やはりちょっと怖いですね。

ちなみに、この動画をネットに公開した後、ある方から「もしヤスで突いたらどうなっていたでしょうか」と質問されました。

想像するに、これほど大きな標的なので、至近距離から狙えば間違いなく命中したと思いますが、僕の貧弱なヤスでは彼を仕留める(=絶命させる)ことはできず、傷を負わせただけで逃げられる結果になっていたと思います。

なので、仮にあのときヤスが手元にあったとしても、僕は突いていなかったでしょう。

そもそも彼を仕留めることに成功したとしても、僕と宿泊仲間だけでは到底あれほどの大物を食べきることはできません。つまり必要以上の無益な殺生になってしまうわけです。

ここで忘れてはいけないのは、魚突きというのは何だかんだ言っても結局は「生き物を殺す趣味」である、ということです。

だからせめて、功名心に駆られて必要以上の獲物を狙うことは控えよう、確実に仕留められて確実に食べきれるサイズの魚しか狙わないようにしよう、というのが僕の心がけているマイルールです。

「これだけ魚を殺しておいて、なに綺麗事をほざいてるんだ」と笑われるかもしれませんが、一応これが、血生臭い趣味に興じる者の良心だと思って下さい。

河口のご馳走

さて、今回の旅行で食材調達の舞台となったのは、岩礁帯だけではありません。ここからは、この島を流れる川の河口付近で仕留めた獲物を紹介します。


河口というのは海水と淡水が混じり合う汽水域であり、多くの魚が集まる場所です。僕もそのことを知っているので何度か食材調達に訪れました。

ここで仕留めた魚の第1号はゴマフエダイ。通称マングローブジャックと呼ばれる魚です。

見た目はクロダイとスズキを足して2で割ってヒレを赤っぽくした感じなのですが、この魚も最初は正体が分からず、SNSで情報を募ってようやく魚種を特定。食べられるとわかったので、刺身にして美味しくいただきました。


お次はイスズミ。

この連載の第1回でも紹介した岩礁帯の魚ですが、河口にもたくさんいて、体長40cmの大物を仕留めることができたので改めて取りあげます。

まずは冒頭にも掲げたこの写真をもう一度ご覧下さい。



どうですか、この貫禄。

こいつは河口の橋脚の根元に設置されたコンクリートブロックの隙間に潜んでいた大物で、ブロックの穴越しにその姿が見えたので、すかさずヤスを撃ち込んで仕留めました。

このイスズミという魚も先程のニザダイと同じく「磯臭い」と言われ、ほとんど市場に出回っていないのですが、セオリー通り、突いてすぐに内臓を取り除いたので、宿の仲間たちと一緒に美味しくいただくことができました。


それでも1回の食事では全部を食べきれない分量だったので、残りは「漬け」にして翌日味わいました。


以上が後半戦で仕留めた獲物の顔ぶれです。


エイの干物作りの顛末

さてみなさん、この連載の第1回で僕が大きなエイを仕留め、その一部を材料に干物作りにチャレンジしたことを覚えていますでしょうか?

その顛末もここで報告しておきましょう。

少しおさらいしておくと、このエイで僕はまず、刺身と煮付けを作り、残りの部分(主にエイヒレ)を細かく切って一晩醤油に浸けてから天日干しにすることにしました。

干し始めた直後はこんな感じで、見るからに美味しそうでした。

ところが、2~3日経ったころから、このエイの身が異臭を発し始めたのです。

これがどんな臭いなのか、言葉で説明するのは難しいのですが、とにかく「これ食べて大丈夫なの?」と不安になるような強烈な異臭でした。

一般的にエイやサメといった軟骨魚類の身は、新鮮な状態から一定期間が過ぎるとアンモニア臭を発すると言われていますが、これがそうなのか?

昔、理科の実験で体験したアンモニアの臭いとはちょっと違う気もしますが、正直よくわかりません。

ただ、ネット情報を信じるなら、エイの干物を作っている最中は強烈な異臭が発生するけど、1週間2週間と経つうちに異臭は弱まり、最後に干物を火で炙ることで異臭は気にならなくなるとのこと。

半信半疑ではありましたが、僕はその言葉を信じて待ち続けることにしました。

幸い、今年の8月は月末を除いて快晴続きで、強い日差しが島に降り注いでいましたから絶好の干物日和ではあります。

で、1週間が過ぎるとこんな感じに。


確かに、異臭は弱まってきました。

試しに一部をオーブントースターで炙ってみると…


おお、なかなかいい感じじゃないか。

恐る恐るかじってみました。

こ、これは……うまい!

確かに異臭が消えている。

いや、より正確に言うと、炙ることによって、僕が異臭だと思いこんでいた独特の臭いが香ばしさに転換した感じ?

食感も悪くありません。ヒレの部分はカリカリ。身を棒状に切った部分は、北海道名物の鮭とばに似た歯ごたえです。

とにかく、これはなかなかの出来栄えです。

僕自身はお酒が全く飲めないので、居酒屋で出されるエイヒレの味というものを知らないのですが、多分こんな感じなんじゃないだろうか。

そう思って、自炊宿の仲間たちにおすそ分けしたところ、酒好きの彼らは「おお、こりゃエイヒレだ」と喜んで、マヨネーズをつけてバリバリ味わっていました。

というわけで、僕の人生初のエイの干物作りは大成功。貴重な保存食となって南の島ライフを彩ってくれました。


というわけで、後半戦も豊かな海の恩恵を受け続けた僕のプチ自給自足生活。このまま快適に幕を閉じるかに思えたのですが、最後に大きな試練が待っていました。

そう、この夏、日本列島に大きな爪痕を残した台風10号の来襲です。僕の南の島旅行もこの台風によって大きなダメージを受けることになりました。

次回はそのあたりを詳しく報告したいと思います。

(つづく)


【南の島30連泊日誌】


こちら(↓)は1カ月にわたる島暮らしの様子を10分間に凝縮した記録映像です

(→南の島自給自足ツアー総集編


こちら(↓)はこの旅行について語った全4回のインタビュー動画です








自分の写真
コロナ禍のなか、45歳で新聞社を早期退職し、念願のアーリーリタイア生活へ。前半生で貯めたお金の運用益で生活費をまかないながら、子育てと読書と節約の日々を送っています。ただいま49歳。

過去記事(時系列)

このブログを検索

ブログランキング・にほんブログ村へ

ご意見ご感想 お待ちしています

名前

メール *

メッセージ *

QooQ