割増金2000万円、産経新聞の早期退職募集

2023/04/30

新聞業界

つい先日、全国紙の一つである産経新聞社が早期退職者を募集する、というニュースが流れました。新聞業界で加速するリストラの流れがまた一つ、あらわになった形です。今回はこの話題について僕が感じたことを書いてみます。 



50代前半なら割増退職金2000万円

FLASHの報道によると、募集人数は120人で対象は4859歳の中高年従業員。募集開始は822日。

そして、注目の割増退職金は最高2000万円。金額は年齢別に決まっていて、具体的にはこんな感じになっている模様です。


48歳 1600万円

49歳 1750万円

50歳 1900万円

5154歳 2000万円

55歳 1600万円

57歳 840万円

58歳 680万円

59歳 560万円


いかがでしょうか。

そういえば一昨年、同じフジサンケイグループのフジテレビの早期退職募集がニュースになり、「退職金は1億円か⁉」とネットで騒がれたことがありました。それに比べるとグループ内の格差は歴然としています。

しかし率直に言って、今の産経新聞社の経営状況を考えれば、これでも「破格の条件」だと思います。仮に、いま僕が産経に勤めていたら、多分この募集に手を挙げているでしょう。


ちなみに、産経の従業員数は2018年ごろまで2000人近くいたそうですが、近年のリストラで現在(20233月末)は1557人まで減少。

また、FACTAオンラインによると、産経の部数は昨年10月の時点で100万部を割り込み、ピーク時の半分まで減っているとのこと。

日本の全国紙と言えば読売・朝日・毎日・産経・日経の5紙体制が長年続いてきたわけですが、近いうちにその一角が崩れるかもしれないと予感させる状況です。



 右派とりこみ戦略、振るわず?

ところで、産経新聞と言えば昔から保守的・右派的論調が持ち味でした。

特に近年は、中国・韓国といった近隣諸国だけでなく、国内のリベラルな野党政治家や文化人、メディアを執拗に攻撃することで右派層を取り込もうとする戦略をエスカレートさせてきたことで知られています。

この戦略、ネット空間での影響力拡大という面ではそれなりに機能したように見えますが、肝心の部数維持に関してはあまり効果を発揮しなかったようです。やはり論調が右か左かというより、今は新聞業界そのものが沈みつつあるというのが実情なのでしょう。

それよりも僕が気になるのは、産経が近年、いわゆるネトウヨ層からの支持を過剰に意識するあまり、記事の質を著しく低下させてしまっているような印象を受けることです。

というのも、日々の紙面やニュースサイトを眺めていて「ああ、これはあまり取材せずに書いてそうだな…」と感じる記事が年々目に付くようになってきたからです。

「基本的な取材をやってない」と司法が認定

そういえば、つい最近も象徴的な出来事がありました。

沖縄の地方議員を批判した産経新聞報道の真偽が争われた裁判で、東京地裁が今年2月、「基本的な取材を欠いている」と認定し、記事の削除と損害賠償を命じる判決を言い渡したのです。

詳細は東京新聞週刊金曜日の報道をみていただければと思いますが、簡単に説明するとこういう話です。

沖縄県宮古島市に、この島への自衛隊配備に反対している石嶺香織さんという女性市議がいました。

産経新聞は2017年3月、ニュースサイトに「自衛隊差別発言の石嶺香織・宮古島市議、当選後に月収制限超える県営団地に入居」という見出しの批判記事を掲載。彼女がルールを破って不正に入居したかのように報じました。

これを受けてネット上には「逮捕しろ」「売国奴」などと中傷する書き込みが相次ぎ、石嶺さんが借りていた駐車場にコンクリートブロックが置かれる嫌がらせまで起きたそうです。

ところが実際は、石嶺さんが入居の申し込みをしたのは市議に当選する前であり、県営団地の入居ルールと照らし合わせても不正行為はありませんでした。

事実無根の中傷に苦しめられ続けた石嶺さんは、すでに元市議となっていた2020年、産経サイトに掲載されたままになっている批判記事の削除と賠償を求めて提訴。今回の判決でようやく記事が事実無根だったことが認定されました————大体こういう経緯です。

問題は、なぜ、こんな根も葉もない記事が全国紙のニュースサイトに堂々と公開されていたのかということです。

信じがたい実態

実は、この裁判の中で、記事を書いた産経新聞のH記者(当時の那覇支局長)の信じられないような取材実態が明らかになっています。なんと、県営団地を管轄する沖縄県の住宅課や宮古島市の議会事務局、そして石嶺さん本人を取材せずに批判記事を書いていたというのです。

その理由がまたすごい。

報道によると、裁判に出廷したH記者は本人取材を怠った理由を問われ、「石嶺さんの電話番号がわからなかった」「出張経費に余裕がなかった」などと説明。さらには人手不足による忙しさを理由に挙げて「何でもかんでもできない。人間には限界がある」と主張したとのこと……。

いや、人手不足なのも経費不足なのもわかるけど、これはそういう理由で済ませられる話じゃないでしょう。 

我が身を振り返ると、現役時代の僕もかなりのダメ記者だったと自覚していますが、さすがにこれほどの手抜き記事を書いた記憶はありません。

そもそも、誰かを実名報道で批判するというのは、記者にとって最も神経を使う仕事です。

事実関係に誤りはないか、法解釈に間違いはないか、善悪の判断が独りよがりになっていないか……。こういうことを何度も何度も確認し、自問しながら取材をつくさないと、思わぬ報道被害を生み出してしまう。あるいは、記事中のわずかなミスを突かれて相手に反撃されてしまう。そういう真剣勝負の世界です。

「批判記事を書くときは『これだけ調べあげられているなら仕方ない』と相手が観念するくらい徹底的に取材しろ」とアドバイスしてくれた先輩もいました。

こういう新聞記者の常識からすると、H記者の感覚は異常です。

記事の中にミスがあったというより、記事の根幹部分がデマだった。取材が甘いというより、そもそも正確な記事を書かなければいけないという意識が薄かった。さらに言えば、この種の「ちゃんと取材せずに批判する」という過ちを、この新聞は近年たびたび繰り返しています。(※例えばこんな感じ

僕はこのあたりに産経新聞社の「右派とりこみ戦略」の危うさを感じます。

自衛隊配備に反対するような「反日的」人物はとにかく叩けばいい、叩けば叩くほど支持が集まる――――というマインドが社内に蔓延しすぎて、批判記事を書く際に持つべき緊張感が薄れてしまっているのではないか、と疑ってしまうわけです。 

こういうセンセーショナルなバッシング記事はSNSなどで拡散されやすく、確かに一時的にはネット空間で産経新聞の存在感を高めてくれるでしょう。しかし同時に、良識ある読者から「ネトウヨと同レベルじゃないか……」と見限られてしまうリスクをはらんだ諸刃の剣だと思います。

新聞そのものが見限られる前に

誤解のないよう付け加えておくと、僕はかつて自分が所属していた新聞というメディアを今でも応援しています。そして世の中には、右から左まで様々な論調の新聞があったほうが健全だと思っています。だから、産経新聞のような右派色の濃い新聞にも頑張ってほしい。

ただ、どんな論調であっても一定の取材レベルを保っておかないと、単なるネットの書き込みみたいな存在になってしまいます。そうなると産経のみならず新聞業界全体が信用を失って絶滅時期を早めることになりかねません。

世間から「新聞ってこの程度のもんか……」と愛想をつかされる前に、産経新聞社にはネトウヨ路線と決別し、まっとうな保守系新聞に生まれ変わってもらいたいと願っています。



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コロナ禍のなか、45歳で新聞社を早期退職し、念願のアーリーリタイア生活へ。前半生で貯めたお金の運用益で生活費をまかないながら、子育てと読書と節約の日々を送っています。

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